僕射

僕射（ぼくや）とは

僕射は、中国にかつて存在した官職名です。秦漢時代にその名が見られ、時代とともに役割を変遷しました。

名称について

「僕射」は独立した官職名ではなく、通常は統率する集団や所属する官庁名を冠して用いられました。例えば、謁者を率いる場合は「謁者僕射」、尚書省に属する場合は「尚書僕射」と呼ばれました。尚書省においては、尚書左僕射と尚書右僕射の2名が置かれることもありました。

「射」の字は一般的に「しゃ」と読みますが、古くから「や」と読むのが慣例でした。清代の学者である何焯が、「夜」と同じ発音にするのは誤りであると主張したことからも、当時から「や」の読み方が一般的であったことがわかります。

秦の時代の僕射

僕射は元々、様々な官庁に付属する武官を指す官職として、秦の時代から存在していました。戦国時代の各国は軍事を重視しており、民政や内政を担当する官吏にも弓射の訓練を課していました。その訓練を監督する官が僕射でした。『史記』には、秦末期の博士僕射や衛令僕射といった例が見られます。

漢の時代の僕射

前漢においても、一部の官に僕射が置かれました。多くの場合、数十人以上の文官または武官を統括する役職でした。後漢も前漢の制度をほぼ踏襲しましたが、一部の僕射は武官としての性格を失い、官庁の次官としての役割を担うようになりました。

唐の時代の僕射

唐の時代には、重要な官庁である尚書省の長官、尚書令が欠員となることが常態化しました。そのため、次官である尚書僕射が実質的な宰相として国政を担うこととなりました。

まとめ

このように、僕射は時代とともにその役割と重要性を変化させてきました。当初は武官としての性格が強かったものの、時代を経るにつれて文官としての役割を増し、最終的には宰相に匹敵するほどの地位にまで昇りつめたのです。



参考文献
中央研究院・歴史語言研究所「漢籍電子文献資料庫」
司馬遷『史記』
班固著、『漢書』
小竹武夫訳『漢書』1から8、筑摩書房、ちくま学芸文庫、1998年。
* 大庭脩監修、漢書百官公卿表研究会『『漢書』百官公卿表訳注』、朋友書店、2014年。

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