元朝銭

元朝銭について

元朝銭（げんちょうせん）は、13世紀から14世紀にかけての元朝時代に中国で流通した銭貨の総称です。元朝は当初、紙幣（鈔）を中心とした経済政策を採り、銭貨の製造には消極的でした。しかし、時代の変遷とともに銅銭も発行されるようになり、その種類は多岐にわたります。

元朝初期の紙幣政策

元朝は、金朝末期の銭貨不足を背景に、当初は紙幣（鈔）の流通を優先しました。1260年には「中統元宝交鈔（ちゅうとうげんぽうこうしょう）」、通称「中統鈔」を発行。これは10文から2貫文までの9種類があり、各地に平準行用庫（平準庫）や回易庫を設け、紙幣と金銀の交換、損傷した紙幣の交換を担いました。

しかし、中統元宝交鈔の兌換が機能不全に陥ったため、1287年には「至元通行宝鈔（しげんつうこうほうしょう）」、通称「至元鈔」を発行。中統元宝交鈔5貫文を至元通行宝鈔1貫文とするデノミネーションが実施されました。これら二つの紙幣は、元代を通じて発行されました。

銭貨の発行と流通

元朝は、1277年に江南地方での銭貨使用を禁止して以来、銭貨の製造・流通にはあまり積極的ではありませんでした。しかし、世祖帝の時代には「元貞通宝」「大徳通宝」が、武宗帝の時代には「至大元宝」「至大通宝」「大元通宝」といった銭貨が発行されています。

1312年には銭貨の製造が一時停止しましたが、1351年に再開。この空白期間にも、「至治通宝」「泰定元宝」「致和元宝」「至順通宝」「元統元宝」「至元通宝」などの銭貨が発行されたとされています。至正年間には、「至元通宝」や「至正之宝」が発行されました。

日本における元朝銭

元朝銭の中でも「至元通宝」は、渡来銭として日本でも使用された記録があります。しかし、元朝銭は製造量が少なかったため、日本に渡来した数も北宋銭や明銭と比較して圧倒的に少ないのが現状です。

元朝銭の特徴

元朝銭は、元朝の経済政策の変遷を反映しており、紙幣中心の時代から銭貨も発行されるようになった歴史が伺えます。銭貨の種類は多岐にわたり、書体やデザインにもそれぞれの特徴があります。また、元朝銭の希少性も、コレクションとしての魅力を高めています。

まとめ

元朝銭は、元朝の経済史を語る上で重要な遺物であり、紙幣と銭貨が併用された時代の歴史を物語っています。現存数が少ないため、研究や収集の対象としても貴重な存在です。元朝銭を通じて、当時の社会や経済の様子を垣間見ることができます。

参考資料

郡司勇夫 編『日本貨幣図鑑』東洋経済新報社、1981年10月15日。
『縮刷東洋歴史大辞典』 上巻、下中彌三郎(編輯)、臨川書店、1986年10月25日（原著1938年）。
日本貨幣商協同組合 編『日本貨幣カタログ2010年版』日本貨幣商協同組合、2009年12月1日。
松丸道雄, 斯波義信, 濱下武志, 池田温, 神田信夫 編『中国史〈2〉三国～唐』山川出版社〈世界歴史大系〉、1996年。
松丸道雄, 斯波義信, 濱下武志, 池田温, 神田信夫 編『中国史〈3〉五代～元』山川出版社〈世界歴史大系〉、1997年。
植村峻『お札の文化史』NTT出版、1994年。
宮澤知之『宋代中国の国家と経済 - 財政・市場・貨幣』創文社、1998年。
黒田明伸『貨幣システムの世界史 - 〈非対称性〉をよむ』（増補新版）岩波書店、2014年。
山岡直人. “中国貨幣の歴史 31 元代の貨幣①―元朝の紙幣制度―” (PDF). 日本銀行金融研究所.

関連項目

中国の貨幣制度史
唐朝銭
宋銭
明銭
渡来銭

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