交鈔

交鈔：金と元の時代を彩った紙幣

金王朝と元王朝において発行され、広く流通した紙幣「交鈔」は、中国の歴史において重要な役割を果たしました。本稿では、交鈔の誕生から廃止、そして世界史における影響までを詳細に解説します。

宋の交子との比較

中国で初めて発行された紙幣は、宋王朝の「交子」です。交子は当初、鉄貨の引換券として機能していましたが、交鈔はそれとは異なり、最初から通貨として発行された点が大きな特徴です。交鈔は、交子よりも広範な地域で通貨として利用され、紙幣の歴史における重要な進化を示しています。

金王朝の交鈔

女真族が建国した金王朝では、華北における銅の不足が貨幣発行の大きな課題でした。この問題を解決するため、金は北宋を滅ぼした後、宋の交子を参考に紙幣と銀貨の導入を決断します。海陵王の治世に交鈔が発行され、その後、承安宝貨や秤量貨幣である元宝銀なども発行されました。しかし、交鈔の過剰発行は深刻なインフレーションを引き起こし、結果的に金王朝の滅亡の一因ともなりました。

モンゴル帝国と元王朝の交鈔

金王朝を滅ぼしたモンゴル帝国は、金の貨幣制度を継承し、第2代皇帝オゴデイは1236年に交鈔を発行しました。江南征服以前の銅不足も発行の背景にあります。耶律楚材は、金の失敗を教訓に発行量の調整を提言し、当初は1万錠（50万貫）の上限が設定されました。しかし、オゴデイの時代には、他のモンゴル族や漢人の諸侯も独自に紙幣を発行しており、通貨は統一されていませんでした。

クビライによって元王朝が成立すると、状況は一変します。中統元年（1260年）、クビライは「中統元宝交鈔」（中統鈔）を7万3千錠（365万貫）発行し、通貨を統一しました。中統鈔は銅貨に代わるものとして位置づけられ、10文から2貫文までの額面がありました。2貫文の交鈔は銀1両に相当しました。交鈔と銀の交換を円滑に行うため、銀1万2千錠の兌換準備金（鈔本）が用意されました。さらに、交鈔の偽造や受け取り拒否には死罪が科せられ、流通の安定化が図られました。

しかし、元が南宋を征服し領土を拡大すると、交鈔の発行量は急増します。至元11年（1274年）から至元23年（1286年）にかけては1350万錠もの交鈔が発行され、通貨価値は急落しました。これに対処するため、元は至元24年（1287年）に「至元通行宝鈔」を発行し、至元鈔と中統鈔の比率を1対5として、旧紙幣の回収と通貨の安定化を目指しました。同時に、交鈔を塩と交換できるようにすることで、政府は塩の専売制による利益を確保しながら、塩を担保として紙幣の信用を維持しました。塩との引換券である「塩引」も通貨として流通しました。

その後もインフレは続き、カイシャン帝は至大2年（1309年）に「至大銀鈔」を発行。至元鈔との交換比率は1対5とされましたが、アユルバルワダ帝は至大銀鈔を廃止し、至元鈔に戻しました。トゴン・テムル帝は至正10年（1350年）に「至正交鈔」を発行しますが、銅銭の流通が増加し、至正16年（1356年）には交鈔はついに廃止されました。

交鈔の製法と形状

中統鈔は桑の樹皮の内皮を繊維状にし、ニカワを混ぜて薄く伸ばして作られました。縦長に裁断され、銅版画で印刷、皇帝の御璽が押印されました。龍や銅貨の図柄、額面、発行所、役人の名前、製造所、偽造に対する処罰などが印刷され、この形式は後の中国紙幣にも影響を与えました。中統鈔のサイズは272×188ミリ、至元鈔は300×222ミリでした。

世界への影響

交鈔の存在は、当時、ヨーロッパやイスラム世界の人々を驚かせました。マルコ・ポーロの『東方見聞録』、ペゴロッティの『商業指南』、イブン・バットゥータの『大旅行記』など、多くの旅行記や記録に交鈔に関する記述が残されています。

イルハン朝では、交鈔を参考に「チャーヴ」という紙幣が発行されましたが、わずか2ヶ月で回収されました。元を滅ぼした明王朝も、銅不足を解消するため「大明宝鈔」を発行しましたが、これもインフレにより失敗に終わっています。

結論

交鈔は、紙幣の歴史における重要な一歩であり、その成功と失敗は後の紙幣制度に大きな影響を与えました。その歴史を学ぶことは、現代の金融システムを考える上でも重要な示唆を与えてくれます。

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