元正花

元正花（ウォン・ジョンファ）：北朝鮮の女性諜報員

元正花は、1974年 1月29日生まれの北朝鮮の女性諜報員です。北朝鮮ナンバー2であった金永南最高人民会議常任委員長の親族にあたります。彼女は脱北者を装い、韓国でスパイ活動を行っていましたが、2008年 7月15日に韓国の検察に逮捕され、有罪が確定しました。継父である金東淳も、共に工作活動をしていた容疑で逮捕されましたが、こちらは無罪判決となっています。

生い立ちと北朝鮮での活動

元正花は、咸鏡北道清津で生まれました。実父と継父も北朝鮮の国家安全保衛部所属の工作員でした。実父は1974年に韓国に潜入しましたが、射殺されたとされています。幼くして父を亡くした元正花は、継父の金東淳の下で育ち、1989年に特殊部隊に入隊します。1992年に怪我のため除隊となりますが、友人とともに亜鉛を5トン窃盗して脱北（北朝鮮では亜鉛1キロの窃盗でも銃殺刑に処せられる）し、約6年間中朝国境に潜伏しました。

北朝鮮保衛部は、元正花の韓国潜入工作訓練を受けた経歴、大胆な行動力、臨機応変さ、性に対する開放的な考え方に着目し、彼女の罪を赦す代わりに工作員として採用しました。1999年からは中朝国境地帯に潜入させ、延吉や琿春などで脱北者ら約100人を北朝鮮に拉致し、その能力を示しました。その後、保衛部から韓国への潜入を命じられました。

韓国でのスパイ活動

2000年 3月21日、金正日総書記の指示により、脱北者の中に工作員を潜入させる対南工作が開始されました。元正花も2001年3月に中国へ潜入し、現地で妊娠。中国人妻を求めていた韓国人会社員と婚約しました。当初、元正花は中絶を希望しましたが、保衛部は妊婦が疑われにくいとして認めませんでした。2001年10月頃に正式に結婚し、韓国へ入国しました。入国直後に脱北者として韓国政府に出頭し、会社員とはすぐに離婚。その後、女児を出産しました。

正式に諜報活動を開始した元正花は、結婚情報会社に登録し、韓国軍人の紹介を希望しました。韓国軍の士官や脱北者団体の幹部ら7名と肉体関係を持ち、軍の情報や要人情報を保衛部に流しました。さらに、韓国に亡命していた黄長燁元朝鮮労働党書記や脱北者団体代表の金聖民の所在把握、韓国人諜報員の暗殺命令も受けていました。

肉体関係を通じて築いたネットワークを元に、韓国軍部にも入り込み、韓国軍政治将校などに、約50回に及ぶ北朝鮮の主張を正当化する講演会を行い、軍部への洗脳工作を行っていました。

二重スパイ疑惑

2003年から2004年にかけて、元正花は北朝鮮国内の情報を目的として近づいた韓国情報機関から、北朝鮮の機密情報の提供を依頼されました。提供された情報は、北朝鮮保衛部の承認を得た、価値の低い情報であったとされています。

対日工作

元正花は、諜報活動のために3度日本にも入国しており、朝鮮総連への接触や日本の永住権を得るため、日本人男性3人との見合いも行っていたとされています。2007年6月に最初の日本潜入を行い、神奈川県川崎市在住の日韓国際結婚業者の協力者とともに宮城県仙台市を訪れ、日本の脱北者の居所を調査しました。同年8月にも再度潜入しています。2008年5月にも潜入し、1回目と3回目の潜入には大阪在住の朝鮮総連の関係団体の幹部の手引きがあったとされています。

逮捕とその後

2008年 7月15日、日本から帰国した直後、元正花は韓国の検察によって国家保安法違反容疑で逮捕されました。この時、韓国内に潜入していた継父や韓国軍内の協力者も逮捕されています。8月には起訴され、10月15日、水原地方裁判所で行われた一審で懲役5年を宣告されました。10月20日には控訴しないことを弁護人を通じて表明し、懲役5年の刑が確定しました。同年12月23日には拘置所内で自殺未遂を起こしています。2013年に刑期満了で出所し、その後は韓国国民として生活し、北朝鮮スパイの動向についてメディアで語っています。

事件の影響

脱北者は14,000人にものぼり、全員の監視は不可能で、なおかつ明らかな犯罪行為がない限り監視が難しいという現状があります。また、北朝鮮の工作員が容易に日本国内に侵入できることや、多数が日本国内で活動しているという現実が改めて明らかとなりました。元正花は、中国国内で韓国人実業家を拉致した北朝鮮の拉致実行犯でもあります。

この一連のスパイ事件では、中国国内で拉致が実行され、中国国内で元正花へのスパイ活動の指令が下されていましたが、事件での中国捜査当局の動きを韓国捜査当局は一切明らかにしていません。

脚注

出典

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