元祖国際秘宝館

元祖国際秘宝館とは

元祖国際秘宝館は、近畿観光開発株式会社が運営していた、性をテーマとした展示施設の総称です。1972年（昭和47年）10月、三重県度会郡玉城町に「伊勢館」が開館したのが始まりです。その後、1981年（昭和56年）には三重県鳥羽市に「鳥羽館（SF未来館）」、山梨県東八代郡石和町（現・笛吹市）に「甲府石和館」が開設され、合計3館体制となりました。

従来の秘宝館が性的な神体や古美術品の展示に留まっていたのに対し、元祖国際秘宝館は等身大の人形や精巧なジオラマを駆使し、視覚的なエンターテイメント性を追求しました。この革新的な展示手法は後の秘宝館に大きな影響を与え、その成功を受けて全国各地に同様の施設が誕生したことから、「秘宝館の始祖」と位置づけられています。しかし、時代の流れとともに来館者は減少し、甲府石和館は1987年（昭和62年）に、鳥羽館は2000年（平成12年）に閉館。最後に残った伊勢館も、2007年（平成19年）3月31日をもってその歴史に幕を下ろしました。

沿革

創業者の背景

元祖国際秘宝館を創設したのは、真珠の加工販売会社「松野パール」を経営していた松野正人氏（1929-1989）です。彼は地元の観光開発にも尽力し、県内の観光や商工関係の要職を歴任するなど、郷土の著名人としても知られていました。東京生まれですが、幼少期に三重県の鳥羽に移住し、父が真珠製品を外国船員に販売する姿を見て育ちます。

松野氏は貝の彫刻事業から始め、常に新規事業を模索していましたが、多くは失敗に終わりました。しかし、伊勢へ移り住んだ後、指輪の型開発で大量生産技術を確立し、「松野パール」として成功を収めます。真珠の卸売だけでなく直売も行い、1964年のニューヨーク万国博覧会への出品も成功させました。

秘宝館の誕生

博覧会への出品と同じ時期にあたる1963年（昭和38年）、松野氏は「近畿観光開発」を設立。伊勢神宮へ向かう観光バスの主要ルート沿いに、真珠直売所を兼ねたドライブイン「パールクイン」を開設しました。これは、今後の日本における車社会の到来を予測した事業でした。周辺は当時は田園地帯でしたが、伊勢神宮への有料道路沿いという立地から多くの観光客を集めます。

ドライブインにはレストラン、宿泊施設、ガソリンスタンド、そして当時のブームに乗じたボウリング場などが併設されていましたが、バイパス開通やボウリングブームの終焉により集客力が低下。テコ入れ策として、1972年（昭和47年）10月、ボウリング場の一部を改装し、松野氏が海外旅行で収集した「性のコレクション」を陳列しました。これは元々、自宅で客に見せていたものですが、食堂での展示が好評だったことから事業化に至ります。家族や親戚からの猛反対がありましたが、松野氏はこれを押し切って展示を強行しました。

コレクション陳列の効果で観光バスが増加したため、松野氏はさらに宣伝を強化します。交尾する馬の剥製をトラックに載せ、オリジナルのテーマソング『元祖国際秘宝館小唄』を流しながら各地を走行し、その宣伝活動は名古屋にまで及んだと言われています。1974年（昭和49年）には展示スペースの増築も行いました。

この頃、松野氏は展示構想を練るため、写真家と共に世界各国を訪れ、インドのカジュラホ寺院やカーマ・スートラ、東南アジア、アフリカなどを視察しました。「国際秘宝館」という名称や施設内のエキゾチックな雰囲気は、こうした視察経験に由来するとされています。

開館と隆盛

伊勢館の正式な開館は1972年 10月で、当初の名称は「国際秘宝館」でした。展示制作費に約3億5千万円、収集費用を含めると5億円以上が投じられたと言われます。

元祖国際秘宝館に先立つ1969年には、徳島県に「男女神社秘宝館」が開館していますが、こちらは性器を模した神体や古美術が中心でした。学術的な枠を超え、等身大の人形やジオラマを用いたエンターテイメント施設としての秘宝館は、まさに元祖国際秘宝館がその名の通りの「元祖」でした。

1978年頃には、アラビア風の城を模した建物を増築。当初は客足が伸び悩みましたが、口コミで人気が広がり大盛況となります。テレビドラマのロケ地になったことや、松野氏自身が「性学博士」としてテレビ番組に出演し、純金製のペニス模型を持ち込むなど話題を提供したことも、人気を後押ししました。一時はラジオ番組のレギュラーも務めるほど、秘宝館は爆発的な人気を集め、絶頂期を迎えました。

元祖国際秘宝館の成功は、全国各地に新たな秘宝館が開館する契機となり、昭和60年代初頭には「温泉観光には欠かせない」存在となりました。当時の団体旅行では、バスガイドが『国際秘宝館小唄』を歌うこともあったと言われます。入館者数は増加の一途をたどり、1977年末には100万人、1982年には200万人を突破。ピークの1977年には年間約27万人を集客しました。1983年には、単なる展示に終わらないという松野氏の哲学から生まれた「馬の交尾実演ショー」が伊勢館で開始されました。これは野生馬を導入し、3年間の研究の末に実現した画期的な試みでした。

分館の展開と閉館

全国に増加する秘宝館に対抗するため、元祖国際秘宝館は分館の開設に乗り出します。1981年には鳥羽館と甲府石和館が開館し、これまでの「元祖国際秘宝館」は「伊勢館」として区別されるようになりました。

しかし、分館建設には地元で激しい反対運動が起こり、特に甲府石和館は訴訟に発展し、開館まで5年を要しました。鳥羽館でも、市民団体が内容に気づき営業阻止運動を展開。市や県も法的な規制に苦慮しましたが、最終的には訴訟を経て和解し、展示人形の性器部分を隠す対応を余儀なくされました。男性器は切断され、女性器は石膏で覆われた状態で展示されることとなります。また、甲府石和館では、マネキンの女性器が露出していたとして、当時の責任者（松野氏の次男）がわいせつ物陳列罪で逮捕される事件も発生しました。これは客が布をめくった状態で放置されていたものを摘発されたもので、二代目社長が父である創業者の意向を汲んだリアルな人形の展示を庇う形での逮捕でした。

こうした困難もあり、甲府石和館は1987年（昭和62年）、鳥羽館は2000年（平成12年）に閉館しました。鳥羽館は設定舞台が1999年だったため、閉館時には「2000年になったので閉館させていただきます」と張り紙をしたそうです。

伊勢館の閉館

伊勢館は2007年（平成19年）3月31日に閉館しました。閉館理由について、当時の松野憲二氏は経営状況の悪化を最大の要因として挙げ、近年は年間入館者数が1万人前後まで落ち込んでいたことを明かしています。他にも、施設の維持管理費の増大、老朽化に対する改装費の負担、そして伊勢までの高速道路延伸により伊勢館前の旧道を通る観光客が減少したことなども閉館の原因となりました。

閉館から数年後、伊勢館の建物は取り壊され、跡地の一部は現在、商業施設となっています。

各館の展示内容（閉館時点など）

伊勢館

三重県度会郡玉城町に所在した伊勢館は、展示物1万点以上、展示面積6,000平方メートル、通路全長600メートルという、他の追随を許さない規模を誇りました。料金は2007年時点で2,000円。展示は複数の館に分かれており、ギリシャ神話、アニマルパラダイス、陰部神社、保健衛生コーナーなどがありました。

展示内容は国際秘宝館の名にふさわしく、性をテーマに世界各地の風俗や神話などを等身大人形で再現。白鳥に犯されるレダ、ヴァイキングの酒宴、レズビアンを眺めるモナ・リザといったユニークなものから、エスキモーの出産、アフリカの女性器切除といった風習、さらには中世ヨーロッパの拷問や伊勢古市の遊廓など、ショッキングで生々しい、ホラーやSM趣味の要素を含むものも少なくありませんでした。これはかつて併設されていた「世界恐怖館」の展示が流用されていたためとも言われます。一方で、スカンクの剥製が一斉に尻尾を上げて放屁音が鳴るなど、力の抜けた展示も混在し、全体として統一感に欠ける側面もありました。

四号館の保健衛生コーナーは開館当初から設置されており、多数の医学模型が展示されていました。これは創業者の「胎児への病気感染や妊娠中の喫煙の有害性に注意してほしい」という願いから製作されたものです。この医学展示は、明治期から昭和初期にかけて盛んだった衛生博覧会の流れを汲むものとする説があり、実際に医学模型や性的なマネキンを製作していた業者が、衛生博覧会にも納入していたことがその連続性を示唆しています。

順路の終盤には、立体ポルノ映画の上映コーナーと、目玉展示であった「馬の交尾実演ショー」の会場がありました。馬の交尾ショーは1983年に始まり、多くの観客を集めました。

鳥羽館（SF未来館）

三重県鳥羽市に所在した鳥羽館は「SF未来館」とも称され、4階建ての建物でした。料金は資料により1,300円から2,000円と幅があります。

2階フロアは全てが「SF未来」をテーマとしたストーリー仕立ての展示で、1999年に地球が破滅した後、宇宙から帰還した将軍が人類再生のために「超未来人間」を製造するという壮大な（そして猟奇的な）物語が展開されていました。人間狩り、不適格者の抹殺、サイボーグ化、機械による精液強制搾取と美女への注入、カプセルでの胎児急速成長、性教育、そして最終形態としての「超未来人間」など、創業者が考案した嗜虐趣味に満ちた内容が、チープな人形や模型で表現されていました。その安っぽさとサディスティックな妄想は評論家によって賛否両論に分かれましたが、SF映画を見ているような迫力と未来セックスの表現が見どころと評する声もありました。

3階は「東海道五十三次エロの旅」と、陰部神社や性病写真などを展示した保健衛生コーナーで構成されていました。東海道五十三次のコーナーでは、江戸時代の遊廓や湯治場での性的な遊び場が再現されていました。

4階は人形が無造作に並べられた空間の一部に、若き日の創業者が錦鯉に陰茎を吸わせたという実話に基づいた蝋人形がありました。別の半分はミニシアターとなっており、ピンク映画やアダルトビデオが常時上映されていました。

甲府石和館

山梨県笛吹市（旧石和町）の石和温泉郷内に所在した甲府石和館は、インド宮殿風の赤いレンガ造りの建物でした。料金はコースによって異なり、2,000円と1,800円。1階はレストランと売店、2階が「性の大芸術館」と称される展示空間でした。

甲府石和館の特色は、人肌に近いソフトビニール製の精巧な人形が多く用いられていた点です。女性の性感帯を刺激するロボットや電動ペニスなど、カラフルな照明と音響の中で未来志向のセックス像が提示されていました。その後、江戸日本橋の遊廓を再現したゾーン、性教育コーナー、そしてポルノ映画の上映で展示が締めくくられました。吐夢書房のガイドブックでは、「未来のセックスやパロディ化された楽しいショーアップ形式」の秘宝館として紹介されていました。

閉館後の展示物

伊勢館の展示物

伊勢館閉館後、膨大な展示物の引き取り先が模索されました。鳥羽館の展示物を引き取った写真家の都築響一氏もその量から引き取りを断念したため、まとめて800万円ほどで売却が検討されました。医学模型の一部（23点）は妙木忍氏を経て国内の大学医学部に寄贈されました。また、トラック数台分の展示物が、静岡県伊東市にあるテーマパーク「まぼろし博覧会」に買い取られました。まぼろし博覧会では、閉館した他の観光施設から集めた展示物を館長の鵜野義嗣氏（セーラちゃん）が独自に改造・展示しており、伊勢館の人形も秘宝館時代の面影がなくなるほど大胆に改変されて展示されています。

鳥羽館の展示物

鳥羽館閉館後、一部の展示物は都築響一氏によって買い取られました。都築氏はその芸術的な価値を評価し、「ちょっといい自動車が買えるくらい」の費用を投じて、数十体に及ぶマネキンなどを購入しましたが、これらは埼玉県の倉庫に長期保管されることとなりました。

その後、これらの展示物は国内外で度々公開されました。2001年の第1回横浜トリエンナーレで初めて一部が展示され、大きな人気を集めました。2002年には東京のギャラリーで『ゑびす秘宝館』展として展示され、デザインイベントでもダイジェスト版が公開されています。2007年にはルクセンブルクの現代美術館で開催された展覧会で再現展示が行われました。2010年には広島市現代美術館での都築氏の個展で大規模な再現、2013年にはギャラリー新宿座で『新宿秘宝館』展として展示されました。

一方、都築氏に引き取られなかった人形なども多く存在し、パールクインの跡地に粗大ごみと共に野積みにされたり、鳥羽館内部に放置されたりしました。鳥羽館の建物自体も閉館後10年以上手付かずで放置され、2007年の解体時には内部に雨水や動物の糞が溜まり、人形が無残な状態で横たわっていたと言います。

2023年10月、都築響一氏は東京都墨田区向島にギャラリー・カフェバー「都築響一コレクション大道芸術館」を開設しました。ここでは無名作家の作品と共に、他の秘宝館から譲り受けた展示物などが「現在進行形の秘宝館」として展示されています。この施設内の3階フロアでは、都築氏が保管していた鳥羽館の人形や背景セットを用いて、鳥羽館の一部分が復元展示されています。

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