兄弟愛と統一

兄弟愛と統一：多民族国家ユーゴスラビアの理念とその変遷

「兄弟愛と統一」（セルビア・クロアチア語: Bratstvo i jedinstvo）は、第二次世界大戦中のユーゴスラビア人民解放戦争において、ユーゴスラビア共産党が掲げたスローガンであり、戦後のユーゴスラビア連邦における多民族政策の基本理念となりました。

歴史的背景

1941年、ユーゴスラビアは枢軸国による侵攻を受け、占領者とその協力者によって民族間の憎悪が組織的に煽られました。特に、クロアチア独立国の成立とそれに伴うセルビア人やロマなどの虐殺、そしてチェトニクによるクロアチア人の虐殺は、「兄弟殺し」と評されました。こうした状況下で、ユーゴスラビア共産党は、ファシスト勢力との戦いを通じて、ユーゴスラビアの主要民族および少数民族間の「兄弟愛と統一」を訴えました。1943年のユーゴスラビア人民解放反ファシスト会議（AVNOJ）は、この理念の具現化として位置づけられています。

ユーゴスラビア連邦における「兄弟愛と統一」

終戦後、「兄弟愛と統一」はユーゴスラビア人民連邦共和国の公式政策となり、1963年と1974年の憲法に明記されました。1974年憲法では、セルビア人、クロアチア人、ムスリム人、マケドニア人、スロベニア人、モンテネグロ人が主要民族として、また、マジャル人、アルバニア人、ブルガリア人などが少数民族として、連邦内で対等に共存することが定められました。この政策は、民族間の類似性や相互依存性を強調し、民族間の対立や憎悪の克服を目指しました。

また、国家機関や経済機関を諸民族が共有する仕組みが導入され、各民族はそれぞれの人口構成に基づいて代表権を持つことになりました。

「兄弟愛と統一」は、工場、学校、イベント、民謡団、スポーツクラブなどの名称にも用いられ、リュブリャナ-ザグレブ-ベオグラード-スコピエを結ぶ幹線道路は「兄弟愛と統一道路」と名付けられました。

「兄弟愛と統一」への批判とその後

ユーゴスラビアでは、「兄弟愛と統一」を脅かすと見なされた排外主義、分離主義、民族統一主義などが厳しく批判され、訴追の対象となりました。その中には、後にボスニア・ヘルツェゴビナの大統領となったアリヤ・イゼトベゴヴィッチや、クロアチアの大統領となったフラニョ・トゥジマン、スティエパン・メシッチ、そしてクロアチア軍の将軍となったラヒム・アデミなどが含まれます。コソボのアルバニア人であるアデム・デマツィは、スパイ及び民族統一主義の容疑で長期間収監されました。

「兄弟愛と統一」の理念は、ユーゴスラビア崩壊後、その有効性が疑問視されるようになりました。しかし、多民族が共生する社会における理念として、その意義を再評価する動きもあります。

参考文献

* "BRATSTVO I JEDINSTVO", Politička enciklopedija, Beograd 1975.

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