八名郡

愛知県八名郡：歴史と消滅の物語

八名郡は、かつて愛知県（三河国）に存在した郡です。豊川東岸、朝倉川以北から宇連川以南の地域を主な範囲としていました。現在の豊橋市、豊川市、新城市の一部にその領域は広がっています。

地理と面積

八名郡は豊川を中心とした地域に位置し、その面積は約220平方キロメートルに及びました。平成22年の国勢調査によると、人口は約6万1250人でした。

歴史

八名郡の成立時期は、7世紀後半の木簡の出土がないことから、大宝律令成立後の8世紀以降と推測されています。郡名の由来については、古代の部民である八名部が多く居住していたという説や、多くの簗（やな）が設置されていたという説があります。

戦国時代には、現在の豊橋市西郷地区周辺を拠点とした三河西郷氏が勢力を持ちました。西郷局（徳川秀忠の生母）を出した家系としても知られています。この地域には、月ヶ谷城、五本松城、西川城といった城郭が築かれ、地域の歴史を彩りました。また、新城市黒田を拠点とした黒田氏も、江戸時代後期には久留里[[藩]]主となっています。

近世以降は「やなぐん」と呼ばれ、明治維新直前には岡部[[藩]]主安部氏が武蔵国岡部から半原村（現在の新城市）に移り、半原藩が成立しました。しかし、すぐに版籍奉還を迎えています。

明治初期には八名高等小学校が設立され、一時的に教育の中心地となりましたが、その後は第一次産業以外に大きな産業が育たず、地域経済は停滞しました。その中で、秋葉街道の宿場町として発展した大野町（現在の新城市大野）は、八名郡唯一の町として栄え、大野銀行は東三河全域の経済を支える存在となりました。1945年には東海銀行（現・三菱UFJ銀行）に合併しています。

1926年には愛知県立豊橋第二中学校（現在の愛知県立豊橋東高等学校）が下川村に設置されました。豊橋市との誘致競争の末、八名郡大野町への配慮からこの地に設置されたと考えられています。

しかし、大正時代の郡制廃止後、八名郡役所のあった八名村は警察署以外の官公庁を失い、太平洋戦争前には豊橋市への合併や八楽地方事務所の新城町への移転などが相次ぎ、郡としての勢力は衰えていきました。

戦後、大野銀行や富岡警察署の合併による消滅、町村合併促進法施行による合併の波を受け、八名郡は徐々にその姿を消していきました。1956年9月30日、山吉田村が南設楽郡鳳来町に編入されたのを最後に、八名郡は消滅しました。

現在、八名郡の名称は新城市南部の中学校や小学校名にわずかに残るのみとなっています。

近世以降の沿革

明治初期、八名郡は複数の藩領や幕府領、旗本領が入り組んでいました。廃[[藩置県]]を経て額田県、そして愛知県へと編入されます。明治11年の郡区町村編制法施行により、行政区画としての八名郡が発足し、郡役所が富岡村に置かれました。その後、町村制施行、合併などを経て、昭和31年の山吉田村の編入をもって、八名郡は消滅しました。この消滅は、1878年の郡再編以来、初めての事例となりました。

まとめ

八名郡の歴史は、地理的条件や政治的状況、そして時代の流れの中で大きく変化しました。かつては多くの村々からなる郡でしたが、合併や編入を繰り返し、最終的には消滅しました。しかし、その歴史は、現在も地域名や学校名などに名残として残っており、地域のアイデンティティを形成する上で重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

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