八茎鉱山

八茎鉱山：歴史と産業遺産

福島県いわき市四倉町に位置する八茎鉱山は、古くから続く歴史を持つ廃鉱山です。スカルン鉱床として知られ、石灰石や砕石の採掘が盛んに行われていましたが、その歴史を紐解くと、タングステン、銅、鉄といった多様な鉱物の産出も確認できます。鉱山の名称である「八茎」の読み方には諸説あり、「やくき」、「やぬき」、「やぐき」など複数の読み方が存在します。

悠久の歴史：古代から近代へ

八茎鉱山の歴史は古く、和[[銅]]年間（708～714年）または明徳2年（1391年）に発見されたと伝えられています。天正元年（1573年）から慶長7年（1602年）にかけては、太田城主であった佐竹氏によって開発が進められました。その後、佐竹氏が秋田へ転封されると、磐城平藩が経営を引き継ぎました。明治時代に入っても個人経営が継続されていましたが、1906年（明治39年）、ドイツの輸入商社と日本の鉱山事業者が共同で八茎鉱山合資会社を設立し、本格的な近代経営が始まりました。

セメント産業との深いつながり

八茎鉱山では、鉱石採掘と同時に大量の石灰石が副産物として産出されました。この石灰石に着目した鉱山社長と実業家は、セメント製造に着手。磐城セメント（後の住友大阪セメント）を設立し、四倉駅近くにセメント工場（四倉工業所、後の四倉工場）を建設しました。工場の操業開始は1908年（明治41年）9月です。

鉱山と工場を繋ぐ物流網

鉱山から工場への石灰石輸送には、索道と軌間610mmの軽便鉄道が用いられました。1907年6月に完成した軽便鉄道は、当初は馬による牽引でしたが、1913年（大正2年）12月には蒸気機関車による牽引に切り替えられました。玉山鉱泉と鉱山を結ぶ索道は1910年（明治43年）9月に完成しました。索道完成以前は、牛や馬を用いた陸路輸送が行われていました。鉱石も同様の輸送手段で四ツ倉駅まで運ばれていました。

経営の変遷と鉄道の廃止と復活

1926年（大正15年）、八茎鉱山は磐城セメントに合併され、経営権が移転しました。軽便鉄道は1952年（昭和27年）に廃止されましたが、1954年（昭和29年）には日鉄鉱業が鉱山の経営権を取得。1958年（昭和33年）には、軌間を1067mmに改修した専用鉄道として運行を再開しましたが、1982年（昭和57年）に再び廃止されました。専用鉄道廃止の4年前の1978年（昭和53年）には、日鉄鉱業から八茎鉱山株式会社が分離され、さらに1983年（昭和58年）には新八茎鉱山株式会社へと経営権が移転しました。

八茎鉱山の遺産

八茎鉱山は、その長い歴史の中で、様々な鉱物の採掘、セメント産業の発展、そして独自の輸送システムの構築など、地域社会に多大な影響を与えました。廃鉱山となった現在も、その遺構は地域の産業遺産として、貴重な歴史を物語っています。軽便鉄道の跡や索道の遺構などは、当時の技術力や産業構造をしのばせる貴重な史跡として、保存と活用が望まれています。

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