公女の肖像 (ピサネッロ)

『公女の肖像』

『公女の肖像』（伊: Ritratto di principessa estense、仏: Portrait d'une princesse d'Este）は、後期ゴシックの巨匠ピサネッロに帰属される板絵のテンペラ画です。制作年代は1435年から1445年頃と推定され、『エステ家の公女の肖像』としても知られています。ピサネッロの作品と断定できる根拠は、画家の様式的な特徴に加え、この時期に彼がフェラーラに滞在し、レオネッロ・デステ侯爵の肖像や記念メダルを制作したという事実に基づいています。

作品の特徴

画面には、多くの蝶やオダマキの花が咲き乱れる背景を背に、横顔の公女が描かれています。特に注目すべきは、公女の眉付近に描かれた蝶（おそらくヨーロッパアカタテハ）で、これは魂の象徴とされています。繊細な筆致で描かれた公女の表情は、控えめながらも気品があり、見る者を魅了します。

本作は現在、フランスのパリにあるルーヴル美術館に収蔵されています。

作品の来歴とモデルを巡る謎

この作品が初めて公になったのは1860年、ドイツ領事フェリックス・バンベルクが購入した時です。その後、1893年にルーヴル美術館がシャルル・ピカールから30000フランで取得しました。

作者がピサネッロであることについては長らく疑いの余地がありませんでしたが、モデルの特定は謎に包まれています。肖像画に描かれているのは非常に若い女性であり、少女である可能性が高いです。緑豊かな背景に、蝶やナデシコ、オダマキの花が散りばめられた中で、横顔の輪郭が際立っています。少女の髪型は、ルネサンス期のイタリアで理想とされた、縦に長く丸い額を強調するように整えられています。当時、女性たちは眉や生え際の髪を抜き、顔から髪を後退させることで、理想的な美を追求していました。

モデルを特定する上で重要な手がかりは、少女の袖に刺繍されたエステ家の紋章です。これは、両側に把手のある花瓶を表しており、ピサネッロがデザインしたレオネッロ・デステのメダルの裏側にも見られます。そのため、この作品をエステ家の様々な公女と結び付ける試みがなされてきました。ピサネッロはエステ家に仕えた芸術家の一人で、フェラーラに数回滞在し、スキファノイア宮殿の装飾にも携わっています。

有力な候補の一人として、マルゲリータ・ゴンザーガ（1439年没）が挙げられます。彼女はレオネッロ・デステの妻であり、本作は1433年の結婚時に描かれた可能性があります。また、衣服の袖にイブキ（イタリア語で「ジネヴラ」）の小枝が描かれていることから、モデルはジネヴラ・デステであるという説もあります。しかし、イブキの小枝は単に幸福の象徴である可能性もあり、名前との関連性は確定的ではありません。ジネヴラは、シジスモンド・パンドルフォ・マラテスタの姪であり、彼の不幸な妻でもありました。マラテスタはロマーニャ地方を荒らし、イソッタ・デッリ・アッティとの関係はスキャンダルとして知られていますが、同時に彼は博識であり、レオン・バッティスタ・アルベルティにリミニのテンピオ・マラテスティアーノの建設を依頼しました。マラテスタは、妻が22歳だった1440年に毒殺したとされています。また、肖像画の女性はゴンザーガ家の公女、ベアトリーチェ、マルゲリータ、あるいはピサネロもメダルに描いた教養のあるチェチリアである可能性も指摘されています。

『公女の肖像』は、作者とモデルの両方をめぐり、今日に至るまで様々な憶測が飛び交っています。しかし、その美しい構図と繊細な表現は、見る者を魅了し続け、時代を超えて愛され続けています。

参考文献

Todorov、M.F. （1970）、 L'Italia dalle origini a Pisanello（I disegni dei maestri）. （Milan：FabbriEditori）
Ventura, Leandro (1996). “Pisanello”. Art Dossier (Turin: Giunti) (113).

外部リンク

エステ家の公女–ルーヴル美術館（フランス語）
Portrait d'une jeune princesse –アトラス・データ・ベース（フランス語）
ウェブ・ギャラリー・オブ・アートでのピサネッロの肖像画
聖人の情熱的なピサネッロの王女

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