公廨稲

公廨稲とは

公廨稲（くがいとう/くげとう）は、日本の律令制度における官稲の一つで、各地方の公出挙の量を朝廷が定めたものを指します。この制度は、官府の財政を安定させるために欠かせない役割を果たしていました。

概要と歴史的背景

天平17年（745年）、政府は公出挙の制度を導入し、大国には40万束、上国には30万束、中国には20万束、下国には10万束の稲が配分されました。ただし、飛騨国、隠岐国、淡路国についてはそれぞれ3万束、志摩国と壱岐国については1万束と少ない量が定められました。この公廨稲は、主に官物の未納分を補填し、余剰が国司の収入として分配される仕組みでした。

導入以前は、公田の地子稲がこの用途に使用されており、国司には無利子で官稲が貸出され、これを出挙方式で運用していました。公廨稲の主たる目的については、国司の給与確保を重視する見方と、官物不足の穴埋めを目的とする見方が存在し、これらの見解は対立していました。

公廨稲の運用と分配方法

公廨稲が導入された後、官物の未納分や分配方法を巡る問題が発生しました。そのため、天平宝字元年（757年）には「公廨処分式」として具体的な規定が定められました。この規定では、まず官物の欠負未納分を補填し、次に国儲に充てた上で、国衙の職員に分配することが定められました。具体的には、守には6分、介には4分、掾には3分、目には2分、史生、医師、博士にはそれぞれ1分が分配される仕組みでした。

例えば、定員が各職に1名の場合、17などと設定されており、分配の実例を見ても、実際には定員が複数となるケースが多く、こうした場合にはさらなる細分化が行われました。そのため、大国のような規模では運用された公廨稲の配分は26等分、下国のような小国では18等分されることが一般的でした。各分については、ほぼ2千束程度が基準とされ、実際の配分でもこの数字をもとに運用されていました。

公廨稲は官物の不足を補う役割が重視された一方で、国司にとっては重要な収入源ともなります。このような事情から、国司の交替時における分配問題は頻繁に起こり、また国司が式の規定を無視して独自に公廨稲を分配する事例も見られました。このように、運営の不正が官物の未納増加にもつながっていきました。

公廨稲の変遷

公廨稲に関する運用や利稲の配分記録は毎年取りまとめられ、「公廨処分帳」として作成され、民部省や主税寮に提出されていました。しかし、これらの記録は現存していません。『延喜式』では正税の出挙稲と同量の公廨稲設置が記されています。

また、天平宝字2年（758年）には、大宰府の官人に対しても「府官公廨」が沖縄地域の特定国に設けられるなど、全国的な運用が広がりました。しかし、中央財政の不足や官物の未納増加により、延暦9年（790年）には欠失未納分を免じて公廨稲の立て直しを行う必要が生じました。これ以後、延暦年間には共填制度が導入されたり、公廨稲が一時廃止されるなどの改革が試みられましたが、状況は改善されませんでした。

平安時代中期以降、年料給分制度の導入に伴い、国司の職務は「二分の官」や「三分の官」と呼ばれるようになり、これにより公廨稲の分配原則が変化していきました。しかし、正税や公廨稲は次第に機能を失い、最終的には11世紀に歴史の舞台から姿を消すことになります。

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