公輸盤

公輸盤：伝説の工匠と墨子との知恵比べ

公輸盤(こうしゅばん)は、[中国]]春秋戦国時代の魯]の工匠として知られています。紀元前507年～紀元前444年に活躍した彼は、姫姓公輸氏、名盤(ばん)で、公輸子、公輸班、[[魯班(ろばん)とも呼ばれました。『墨子』や『淮南子』といった古典籍にその名が登場し、卓越した技術と発明で名を馳せた人物です。

驚異の発明と伝説

公輸盤は、攻城兵器である雲梯(うんてい)や鉤拒(こうきょ)といった軍事技術の開発者として知られています。また、彼の発明は軍事分野にとどまりません。[竹]]や木を用いて製作した「鳶(とんび)」という模型の鳥は、なんと3日間も空を飛び続けたという伝説が『酉陽雑俎』や『論衡』に記されています。これは、当時の人々にとって信じられないほどの技術力であったことを示しています。さらに、鉋]や錐(きり)といった[[木工工具の発明者であるとも伝えられています。彼の技術は、建築、彫刻、船、車、農具など多岐に渡り、鋸、墨壺、曲尺(魯尺)なども彼が手掛けたとされています。

公輸盤の伝説は、彼の死後も人々の記憶に深く刻まれました。後世、建築の祖師として祭祀されるなど、人々からの崇拝を集める存在となりました。『論衡』には、母親のために木の馬車を作ったものの、母親が操縦方法が分からず行方不明になったという逸話も残されています。また『酉陽雑俎』には、木の鳶を飛ばした彼の父親が、呉まで飛んで行ってしまったという、より劇的な伝説も伝わっています。これらの伝説は、彼の技術力の高さ、そしてその技術が及ぼす影響の大きさを示すものです。

墨子との出会い：知略の対決

公輸盤は、『墨子』の「公輸篇」において、墨子と対決する場面が描かれています。楚(そ)の国のために、宋(そう)を攻めるための雲梯を完成させた公輸盤でしたが、墨子はそれを阻止しようと楚へ赴きます。

墨子は、公輸盤に宋を攻めることの非を説きます。楚に広大な領土と資源がある一方、宋にはそれがないことを指摘し、宋を攻めることは、盗人に例えられると主張しました。公輸盤は当初は難色を示しましたが、墨子の論理に徐々に感銘を受けていきます。しかし、既に楚王への報告済みであったため、攻城を中止することは不可能でした。

そこで墨子は楚王に謁見し、公輸盤の論理で楚王を説得します。楚王は墨子の主張に納得し、宋を攻めることを中止しました。しかし、墨子の死後、公輸盤の技術は再び軍事目的に使われ、やがてその技術は失われていきました。

公輸盤と墨子：技術と道徳の葛藤

『墨子』公輸篇は、技術の進歩と道徳的責任という現代にも通じるテーマを描いています。公輸盤は卓越した技術を持つ一方で、その技術が戦争や破壊に利用される可能性を秘めていました。墨子は、公輸盤の技術を平和的な目的のために使うよう説得を試みますが、最終的には技術の倫理的問題を提起する形となりました。

公輸盤の業績は、彼の発明や伝説を通じて後世に語り継がれています。そして、彼と墨子との対決は、技術と道徳の葛藤、そして平和と戦争という永遠のテーマを私たちに問いかけ続けています。彼の技術は失われつつありますが、彼の物語は、技術と倫理のバランスについて考える上で貴重な教訓を与えてくれます。

参考文献

袁珂『中国神話伝説大事典』
真野隆也『道教(タオ)の神々』
『中国古典文学大系第5巻「韓非子　墨子」』
『岩波　世界人名大辞典　第1分冊（ア～テ）』
『論衡』
段成式『酉陽雑俎第4巻』

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