六歌仙容彩

六歌仙容彩（ろっかせん すがたのいろどり）

『六歌仙容彩』は、歌舞伎および日本舞踊の演目の一つで、『六歌仙姿粉』、『六歌仙容紋』とも呼ばれます。天保2年（1831年）3月に江戸中村座で初演されました。初演時の外題は「うたあわせすがたのいろどり」と読まれ、通称『六歌仙』として親しまれています。

概要

この演目は、『古今和歌集』の序文に登場する六人の歌詠み「六歌仙」を題材としています。小野小町を除く、遍照、文屋康秀、在原業平、喜撰、大友黒主の五人を、二代目中村芝翫（のちの四代目中村歌右衛門）が早替わりで演じ分け、踊り分けるという趣向の所作事です。作者は松本幸三、作曲は十代目杵屋六左衛門と清元斎兵衛、振付けは四代目西川扇蔵と中村勝五郎が担当しました。

成立の背景

六歌仙を題材とした芝居や音曲は、『六歌仙容彩』以前にも存在していました。特に寛政元年（1789年）に大坂中の芝居で上演された『化粧六歌仙』は、本演目の原型となりました。この『化粧六歌仙』では、初代嵐雛助が仕丁に扮し、遍照ら五人の歌人に化けて小町を口説きますが、実はその仕丁は天下を狙う謀反人であるという内容でした。

『六歌仙容彩』は、この『化粧六歌仙』を基に、大薩摩節、長唄、清元節を用いた所作事として構成されました。遍照ら五人が小町に恋の思いを訴えるものの、いずれも受け入れられず、最後は黒主が天下を狙う謀反人であることが明らかになり、幕となります。

各歌仙の演出

本来は一人の役者が五人の歌人を早替わりで演じる形式でしたが、後に各歌仙を別の役者が演じるようになり、さらに康秀と喜撰のくだりだけを独立させ、『文屋』、『喜撰』として上演されることもあります。

遍照

幕が開くと、仕丁たちが筋を説明する場面から始まりますが、近年では省略されることもあります。遍照は緋の衣に九条袈裟という高位の僧侶の姿で登場し、小町への恋慕の情を訴えます。しかし、小町に拒絶され、意気消沈して去ります。

文屋康秀

烏帽子狩衣姿の文屋康秀が、官女たちに追いかけられながら登場します。曲は清元節に変わり、康秀は官女たちに翻弄され、烏帽子と狩衣を脱がされます。結局、小町に会うことはできず、逃げ出すようにその場を後にします。

在原業平

舞台中央の御殿に、桜の枝を持った十二単姿の小町と、老懸けの付いた冠の装束で矢を負い弓を持つ業平が現れます。曲は長唄に変わり、業平は小町に思いの丈を訴えますが、やはり拒絶され、失意のうちに花道へと去ります。

喜撰

大道具が屋外に変わり、喜撰法師が坊主の白い着付けに腰衣の姿で、酒入りの瓢箪を括りつけた桜の枝を持って花道から登場します。茶汲み女との掛け合いや、住吉踊りなどが繰り広げられ、喜撰は再びどこかへ行ってしまいます。

大友黒主

黒主の演出は、初演以降一定していません。御所の奥庭で、黒の冠装束の黒主と、十二単姿の小町が現れ、『草紙洗小町』の趣向を見せます。黒主の歌が天下を呪う意があると見破られ、謀反の心が明らかになると、捕手が出てきて立回りとなり、幕となります。

逸話

七代目坂東三津五郎によれば、『六歌仙』での四代目中村芝翫の早替わりは驚くほどの速さで、舞台から引っ込むと同時に衣裳と眉を素早く描き直し、あっという間に替わって出たため、相手役の小町・茶汲みを勤める役者のほうが慌てたといいます。

昭和15年（1940年）には、六代目尾上菊五郎が出演した『六歌仙容彩』に対し、警視庁が上演中止を命令しました。「遍照」、「文屋」、「喜撰」の踊りが退廃的であるという理由でした。

まとめ

『六歌仙容彩』は、六歌仙という古典的な題材を基に、歌舞伎舞踊の様々な要素を取り入れた、変化に富んだ演目です。早替わりや多様な音楽、そして役者の演技によって、観客を魅了し続けています。

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