六浦荘村

明治時代から昭和初期にかけて、神奈川県久良岐郡の南部に位置したのが六浦荘村です。現在の横浜市金沢区の西部にあたるこの地域は、短期間ながらも独自の歴史を刻み、地域の発展において重要な役割を果たしました。

歴史的変遷

六浦荘村は、1889年（明治22年）4月1日に施行された町村制に基づき、三分村、釜利谷村、そして泥亀新田の飛地が統合されて誕生しました。その後、村域の変更もあり、1897年（明治30年）には鎌倉郡鎌倉町の一部であった大字峠（現在の朝比奈町、東朝比奈二・三丁目の各一部にあたる）が六浦荘村に編入されています。

この村が存在した期間は比較的短いものでした。1936年（昭和11年）10月1日、六浦荘村は発展する横浜市に編入され、その区域はまず磯子区の一部となりました。さらに時を経て、戦後間もない1948年（昭和23年）5月15日には、磯子区の一部が分割されて金沢区が新設され、旧六浦荘村の地域は新たに設置された金沢区の管轄へと移りました。

経済活動

六浦荘村では、多様な産業が営まれていました。経済活動は、農業と商工業が中心となっていました。

商工業

村内には様々な業種の商店や事業所が存在しました。材木、竹、薪、炭の卸売・小売りに加えて煙草や荒物を扱う「大島屋」の長島藤吉氏や、醤油商の相川藤兵衛氏などが知られています。また、「室崎屋」という屋号を持つ相川家の人々は、農、商、質屋、材木、薪、炭、酒など多岐にわたる事業を展開していました。その他にも、質屋業を営んだ「丸木三」の森兵重郎氏など、多くの個人や家が商業を支えていました。長谷川八兵衛氏、長谷川喜兵衛氏、三平藤蔵氏、柳下粂蔵氏、長坂倉作氏といった人々も、村の商工業を担っていました。

農業

農業も六浦荘村にとって重要な産業でした。『大日本篤農家名鑑』には、この地域の篤農家として中澤資久氏、田中七五郎氏、竹林瑞應氏、森平十郎氏、石井啓次郎氏、石井七之助氏、布川悦五郎氏、堀川菊次郎氏、堀江房次郎氏らの名前が記録されており、多くの人々が農業に従事し、地域の食料生産を支えていたことが伺えます。

地域社会と人口

村の地域社会に関する貴重な情報として、『全国部落調査』（昭和9年11月現在）の調査報告書に、村内の三分地区にある髙谷についての記述が見られます。それによれば、この地域は戸数49、人口276人で、主な生業は職工であり、副業として雑業が営まれ、生活程度は「下」と記されています。これは、当時の村内の特定の地域の社会経済状況を示す一側面と言えます。

交通網

六浦荘村が存在した時代、地域の交通を担っていたのは主に鉄道と主要道路でした。

鉄道路線

当時、湘南電気鉄道（現在の京浜急行電鉄）の路線が村内を通っており、本線および逗子線が利用可能でした。村内には金沢八景駅が設置され、地域住民の重要な交通手段となっていました。なお、現在の六浦駅は当時まだ開業しておらず、また金沢シーサイドラインも後の時代の開業となります。

道路

主要な道路としては、横須賀街道（現在の国道16号）が村を通過しており、近隣地域との交通や物流を支える幹線道路として機能していました。

現在の地名

六浦荘村の旧村域は、現在の横浜市金沢区内の多くの町名に引き継がれています。住居表示が実施されている地域としては、釜利谷西、釜利谷東、釜利谷南、瀬戸、高舟台、大道、東朝比奈、みず木町、六浦、六浦東、六浦南などが含まれます。また、住居表示が実施されていない地域としては、朝比奈町、釜利谷町、能見台、能見台森、六浦町といった町名にその範囲が残されています。

六浦荘村ゆかりの人物

六浦荘村は、様々な分野で活躍した人物を輩出、あるいはゆかりのある地として知られています。特に政治・経済分野において著名な人物が多く見られます。

政治・経済
七代相川文五郎：農業を営み、神奈川県の多額納税者として名を連ねました。
相川行雄：麹町学園の理事長を務めました。
小泉由兵衛：鳶職人であり、請負師として成功しました。彼は後に軍港として発展した横須賀に進出し、海軍向けの労働者供給で大きな力を持った人物です。小泉又次郎氏の父にあたります。
小泉又次郎：六浦荘村の大道出身の政治家です。後の内閣総理大臣・小泉純一郎氏の祖父であり、現衆議院議員の小泉進次郎氏、俳優の小泉孝太郎氏の曾祖父にあたります。又次郎氏が生まれた頃、大道は戸数わずか32戸の小さな集落でした。彼は政治の世界で活躍し、横須賀市長や逓信大臣、衆議院副議長などを歴任しました。
小泉岩吉：土木建築請負業を営み、神奈川県の多額納税者でした。小泉又次郎氏の弟にあたります。
小泉兼吉：農業を営む傍ら、久良岐郡の郡会議員として政治にも関わりました。
石井七之助：農業を営みながら、小泉兼吉氏と同様に久良岐郡の郡会議員を務めました。
田中俊三：久良岐郡の郡会議員として活動しました。
日高信太郎：田中氏と同様、久良岐郡の郡会議員を務めました。

その他
田中耕造：医師として村の医療に貢献しました。
* 長島重太郎：小学校教員として、地域の教育を担いました。

このように、六浦荘村は短い期間ではありましたが、地域の産業や交通の要衝として機能し、現代に繋がる多くの地域の基礎を築き、様々な分野で活躍した人物を育んだ歴史ある地域と言えるでしょう。

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