共同幻想

共同幻想とは

共同幻想（きょうどうげんそう）は、多くの人々が共に持つ幻想を意味しています。この概念は、日本の思想家、吉本隆明によって広く知られるようになりました。吉本は共同幻想を、カール・マルクスが提唱した「上部構造」という用語と同義であると考え、その理由を述べています。彼は、この言葉の使用が一般的になりすぎたため、自身の理論には新たな用語が必要だったのです。

3つの幻想領域

吉本は著書『共同幻想論』（1968年）で、交流の中の異なる側面を3つの種類に分類しました。

1. 自己幻想

自己幻想は、個人と自我の関係を表します。芸術など、個人が主体的に行う活動がこの分類に入ります。この幻想の中では、他者への影響が少なく、個人が自由に行動できる場面が特徴です。

2. 対幻想

対幻想は、個人と他者との私的関係を指します。家族や友人、恋人との関係がこれに該当します。この幻想領域では、プライベートな感情やつながりが重要視されます。

3. 共同幻想

共同幻想は、人々の公的な関係を示します。国家や法律、企業、経済など、より広範な人間関係がここに含まれます。宗教もまた、個人の内面で留まる場合は自己幻想に属するものの、教団を形成することで共同幻想となります。吉本は、日常生活においてこの3つの幻想領域を混同しないことが大切だと強調しています。その理由は、それぞれの幻想が独自の法則を持ち、異なる動きをするからです。

例えば、吉本によれば、フロイトが提唱したリビドーの概念を社会領域に無条件に当てはめようとしたのは誤りであるとされています。

幻想論と疎外論

吉本の幻想論は、マルクスの疎外論から多くの影響を受けています。彼は、有機体を原生的疎外と捉え、生命が自然から切り離された状態に幻想性があると考えました。意識や肉体の関係については、肉体がなければ意識が生まれないものの、意識自体は肉体に還元されないという異なる視点を示しています。この考え方を通じて、吉本は唯心論や唯物論の限界を超えようとしました。

幻想の定義

吉本は、各幻想を以下のように定義しています。

• - 自己幻想：個人の身体という自然基底からの疎外
• - 対幻想：男女の肉体的な性交渉という自然基底からの疎外
• - 共同幻想：市民社会という自然基底からの疎外

上部構造と下部構造

吉本にとって、近代国家であった戦前の大日本帝国が古代的な政治体制に支配されてしまったことは大きな問題でした。彼は、政治体制は経済体制に規定されるというロシア・マルクス主義を批判し、上部構造（共同幻想）と下部構造（経済体制）の間には相対的自立性があると主張しました。これは、経済体制の分析を試みても共同幻想の理解には至らないということを意味します。

共同幻想と自己幻想の逆立性

吉本は、共同幻想が自己幻想に逆立つことがあると述べています。個人を守るための共同体でありながら、その共同体が個人を束縛し、さらには個人を死へと強制するような状況も存在します。彼の造語「逆立」は多義的で、対立や抑圧を意味することもあれば、単なる質的差異を指すこともあります。

吉本は常に、共同幻想が自己幻想を支配し勝利すると主張しています。個人の努力があっても、時代や歴史の流れには抗えないという考え方は、彼自身の人生経験にも基づいているのかもしれません。

まとめ

このように、吉本隆明の共同幻想論は、個人と社会、幻想の構造を理解するための重要な視点を提供しています。彼の理論を通じて、それぞれの幻想がどのように作用し合っているのかを探ることができ、個人と社会の関係性を再考する契機となるでしょう。

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