共通結合機構

共通結合機構（Common Berthing Mechanism: CBM）

共通結合機構（Common Berthing Mechanism、略称: CBM）は、国際宇宙ステーション（ISS）において、ロシア連邦宇宙局が開発したモジュールや宇宙船以外の部分で、与圧されたモジュールや補給船を互いに接続するために使用される標準的な結合機構です。ISSの複雑な構造を構築し、各国の実験モジュールや貨物船を受け入れる上で不可欠な要素であり、ISSの運用において非常に重要な役割を担っています。

機構の構造と結合プロセス

この共通結合機構は、大きく分けて「アクティブ共通結合機構（ACBM）」と「パッシブ共通結合機構（PCBM）」の二種類で構成されています。これらの機構を組み合わせることで、二つの構造物を物理的に強固に、かつ宇宙空間という真空環境下での気密性を確保した状態で接続することが可能となります。

結合のプロセスは、まずアクティブ側の機構に搭載されたモーターによって駆動される計16本のボルトが、パッシブ側の機構に設けられた受け口へと挿入され、締め付けられることで二つの構造物が強固に結合されます。この構造的な結合が完了すると、次に巨大なOリングが圧縮されることで、内部空間の気密が保たれ、宇宙飛行士がモジュール間を行き来できる状態が作られます。最終的な結合プロセスとして、宇宙飛行士が手動で電力供給ケーブル、通信ケーブル、そして必要に応じて液体や気体を通す流体ホース類を接続することで、両モジュール間の機能的な連携が確立されます。このように、CBMによる結合は、単なる物理的な固定だけでなく、生命維持に必要な気密性の確保や、システム間の機能的な連携までをカバーする重要なステップを含んでいます。

従来の機構との比較と特徴

CBMの最大の特徴は、従来のドッキング機構と比較してその開口部が非常に大きい点にあります。具体的には、ハッチの開口部の直径は約130センチメートル（51インチ）にも及びます。これは、例えばロシア側のドッキング機構（APASなど）に比べて格段に広い開口部です。この大きな開口部により、ISS内で使用される大型の実験装置や、比較的大型の物品をモジュール間や補給船との間で容易に移動させることが可能となり、ISSで行われる科学実験の多様化や、運用効率の向上に大きく貢献しています。大型の機器を分割して搬入・組み立てる必要が減ることで、クルーの作業負担軽減にも繋がります。

具体的な使用事例

歴史的には、ロシア側のモジュール接続に使われるドッキング機構とは異なるこのCBMは、ISSの初期においてプローブ・アンド・ドローグ方式のドッキング機構に繋がっていたPMA（与圧結合アダプタ）を除く主要なモジュール接続として、初めてノード1「ユニティ」とZ1トラスを接続する際に用いられました。その後、CBMはISSの基幹となるモジュールであるノード1「ユニティ」、ノード2「ハーモニー」、ノード3「トランクウィリティー」といった各与圧モジュールに標準的に搭載され、それぞれが周囲のモジュールと接続するために使用されています。これらのノードモジュールは、それぞれ6基のCBMポートを備えており、ISSの複雑な構造を形成する上で中心的な役割を果たしています。日本の「きぼう」実験棟も、このCBMを介してISSのノード2に接続されています。

さらに、CBMはISSへの物資補給を担う様々な宇宙船との結合にも広く利用されています。例えば、日本の宇宙航空研究開発機構（JAXA）が開発した無人補給機である宇宙ステーション補給機（HTV、愛称「こうのとり」）や、アメリカのスペースX社が開発したドラゴン補給船（初期型）、そしてノースロップ・グラマン社（旧オービタル・サイエンシズ社）が開発したシグナス補給船といった、非ロシア製の主要な補給船の多くがISSのCBMポートに接続されます。

運用上の特徴と注意点

CBMは、前述のように堅牢な構造と大きな開口部を持つ優れた結合機構ですが、運用上重要な特徴があります。それは、CBM自体には、宇宙空間で自律的に目標ポートへ接近し、位置や姿勢を正確に調整して結合するような、いわゆる「自動ドッキング」機能は備わっていないという点です。そのため、これらの補給船や一部のモジュールをCBMポートに接続する際には、地上の管制官の指示のもと、ISSに搭載されている巨大なロボットアーム「カナダアーム2」（正式名称：Space Station Remote Manipulator System, SSRMS）を用いた繊細な遠隔操作による捕捉と引き寄せ（ベルシング操作と呼ばれる）が必要となります。

具体的には、ISSに接近した補給船などは、カナダアーム2によって把持され、ISSの所定のCBMポートまで慎重に運ばれます。そして、適切な位置合わせが行われた後、ロボットアームによってポートへと引き寄せられ、物理的な結合が開始されるのです。このベルシング操作は、高度な技術と正確な操作を要求されるISS運用における重要なプロセスの一つです。

このように、共通結合機構（CBM）は、ISSの構造を構築し、各国の実験モジュールや補給船を受け入れる上で不可欠な要素であり、その堅牢な構造と大きな開口部は、ISSの多機能性と運用性を支える基盤となっています。

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