与圧結合アダプタ

与圧結合アダプタ（PMA）

与圧結合アダプタ（Pressurized Mating Adapter: PMA）は、国際宇宙ステーション（ISS）において、規格の異なる宇宙モジュールや宇宙船同士を接続するために開発された重要なインターフェース装置です。NASAが開発を主導し、アメリカ航空宇宙局（NASA）が採用する共通結合機構（Common Berthing Mechanism: CBM）と、ロシア連邦宇宙局が採用するアンドロジナスドッキング機構（Androgynous Peripheral Attach System: APAS）という、性質の異なる二つのドッキングシステムに対応できるよう設計されています。これにより、主にアメリカ側のモジュールやスペースシャトルと、ロシア側のモジュール間の接続を可能にし、ISSの建設および運用において不可欠な役割を果たしました。

ISSには合計3基のPMAが設置されました。最初の2基、PMA-1とPMA-2は、1998年12月のスペースシャトル「エンデバー」によるSTS-88ミッションでISSの最初の構成要素であるユニティモジュールと共に打ち上げられました。続いて、3基目のPMA-3は、2000年10月にスペースシャトル「ディスカバリー」によるSTS-92ミッションで運搬されました。

各PMAの役割と経緯

ISS上の3基のPMAは、基本的な機能は同じですが、それぞれに特有の設置場所や用途がありました。

PMA-1
PMA-1は、ユニティモジュール後方の結合ポートに最初から取り付けられた状態で打ち上げられました。STS-88ミッションの宇宙飛行士たちは、シャトルのロボットアームを使って、ISSで最初に軌道投入されたロシアのザーリャモジュールをこのPMA-1に結合しました。PMA-1は、ISS初期の核となるユニティとザーリャを恒久的に結びつける役割を担い、与圧された居住空間を確保するだけでなく、モジュール間で通信、電力、キャビンエアなどを供給するための重要な経路としても機能しました。PMA-1もアンドロジナスドッキング機構を備えており、スペースシャトルがドッキングすることも可能でした。

PMA-2
PMA-2は、主にスペースシャトルのドッキングポートとして活用されました。ユニティモジュール前方のハッチに接続されて打ち上げられましたが、2001年2月のSTS-98ミッションでアメリカの実験棟であるデスティニーモジュールが運ばれた際、ユニティから一時的に取り外されて別の場所に仮置きされました。デスティニーがユニティに結合された後、PMA-2はデスティニーの前方ハッチに移設され、以後、ここがシャトルの主要なドッキング場所となりました。このPMA-2の一時的な切り離しと再結合は、ISSで初めて共通結合機構（CBM）によって接続された構成要素を分離するミッションとなりました。2007年10月のSTS-120ミッションでハーモニーモジュールが運ばれた際も、ディスカバリーはデスティニーのPMA-2にドッキングし、カナダアーム2を使用してハーモニーの取り付け作業が行われました。シャトルがISSのPMA-2にドッキングする際は、秒速約3センチメートルという非常に遅い相対速度で接近し、PMA-2に接触すると自動的にラッチ機構が作動して一時的に結合を固定します。その後、シャトル側の宇宙飛行士がドッキングリングを引き込み、両者を強固に結合させる手順が取られました。

* PMA-3
PMA-3は、STS-92ミッションでスペースラブパレットに固定された状態でISSへ運ばれました。主にPMA-2が使用できない場合の代替ドッキングポートとして機能し、特に太陽電池パドルの設置ミッションであるSTS-97と、デスティニーモジュールの設置ミッションであるSTS-98の計2回、シャトルのドッキングに使用された実績があります。設置当初はユニティモジュールの地球側ハッチに接続され、STS-97ではエンデバーがここにドッキングしました。STS-98では、PMA-2をユニティからデスティニーへ移設する作業を行うために、アトランティス号がPMA-3をドッキングポートとして使用しました。その後、PMA-3はISSの構成変更に伴い度々移設され、多目的補給モジュールの取り付けや、ハーモニー、トランクウィリティーといった新しいモジュールの取り付け場所を確保するために一時的に移動されました。現在は、トランクウィリティーモジュールの左舷ハッチに接続されており、主に物資の保管場所として利用されています。

歴史的背景

与圧結合アダプタはボーイング社によって製造されました。その設計思想の一部は、かつてスペースシャトルがロシアの宇宙ステーション「ミール」にドッキングする際に使用されたアダプタと共通する部分がありますが、形状など構造的には異なるものです。これは、国際協力によって宇宙開発を進める上で、異なる技術体系を持つ国家間のシステムを円滑に連携させるための工夫が凝らされた結果と言えます。

与圧結合アダプタは、ISSのモジュールや宇宙船の円滑な接続を支え、その組み立てと長期的な運用に不可欠な役割を果たした、文字通り「つなぎ役」として宇宙開発史にその名を刻んでいます。

関連情報

JAXAのウェブサイトなどでも、与圧結合アダプタに関する日本語情報が公開されています。

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