兵営人民警察

兵営人民警察（Kasernierte Volkspolizei, KVP）

兵営人民警察（Kasernierte Volkspolizei, KVP）は、ドイツ民主共和国（東ドイツ）にかつて存在した準軍事組織です。国家人民軍（Nationale Volksarmee）の前身であり、東ドイツの軍事力形成において重要な役割を果たしました。人民議会による正式な再軍備宣言まで、形式上は内務省に属するドイツ人民警察の一部門とされていました。

歴史

建国以前

1948年10月、在独ソ連軍政府（SMAD）は、占領地における警察業務を担っていたドイツ人民警察に対し、軍事部門としての機動警察（Bereitschaftspolizei）の編成を命令しました。その規模は、1個連隊250人とする40個連隊とされました。機動警察の隊員は、第二次世界大戦中に捕虜となった旧ドイツ国防軍の兵士から募集されました。

1948年11月、ドイツ内務管理局（Deutsche Verwaltung des Innern, DVdI、後の国家保安省および内務省）は、機動警察と国境警察（Grenzpolizei、後の国境警備隊）を統括する権限を獲得しました。これらの部隊は、国境警察及び機動警察本部（Hauptabteilung Grenzpolizei und Bereitschaften, HA GP/B）が管轄し、ヴィルヘルム・ツァイサーが総監に任命されました。1949年8月25日、国境警察及び機動警察本部は、訓練管理局（Verwaltung für Schulung, VfS）に改名されました。

建国後

1949年10月7日、ソビエト連邦占領下の東ドイツ地域でドイツ民主共和国が成立しました。この際、DVdIの一部が内務省に分割され、訓練管理局もドイツ人民警察の一部門として内務省に移管されました。1949年10月15日、訓練管理局は演習本部（Hauptverwaltung für Ausbildung, HVA）と改名され、1950年4月頃には、機動警察の将校であったカール＝ハインツ・ホフマンが司令官に就任しました。

兵営人民警察

1952年6月1日、ヴィリー・シュトフ内務相は、1952年4月にモスクワで採択された正規軍構築に関する声明に基づき、演習本部を兵営人民警察（Kasernierte Volkspolizei, KVP）に改組するよう命令しました。1952年8月には、共和国北部の防衛を担うパーゼヴァルク兵営人民警察管区（Territoriale Verwaltung der KVP Pasewalk）が設置され、10月にはドレスデン、デッサウ、ライプツィヒにも同様の管区（Territoriale Verwaltung, TV）が設置されました。正規軍化を目指して拡大を続けていたKVPでしたが、1953年6月には財政悪化に伴い縮小され、さらに1953年6月17日の東ベルリン暴動後、「政治的に信頼できない」と見なされたKVP隊員が約25,000名解雇されました。

1953年8月、海上人民警察（Volkspolizei See）と航空人民警察（Volkspolizei-Luft）が合流し、陸海空の三軍体制が整いました。この際、パーゼヴァルク管区は北部管区（TV Nord）または第12管区（TV 12）と改名され、ライプツィヒ管区は南部管区（TV Süd）または第24管区（TV 24）と改名されました。各管区には、航空人民警察を再編した航空隊（Aeroklub）が配置されました。1954年春、本部（Hauptstadt）はベルリン・アドラースホーフから東に35キロ離れたシュトラウスベルクに移動しました。海上人民警察本部も再編の際、パローからロストックへ移動されました。一方、航空隊では、1953年8月の合流時点で航空隊本部（Verwaltung der Aeroklubs, VdAK）が設置されていました。

国家人民軍への改編

1956年1月18日、人民議会は「国家人民軍及び国防省の創設に関する法律」を採択し、兵営人民警察は国家人民軍（Nationale Volksarmee）に改組されることが決定しました。シュトラウスベルクの本部にドイツ民主共和国国防省（Ministerium für Nationale Verteidigung der DDR, MfNV）が設置され、国防省は国家人民軍によって第1軍管区に区分されました。北部管区と南部管区は地上軍の第5及び第3軍管区となり、航空隊と海上人民警察はそれぞれ空軍と人民海軍の母体となりました。また、空軍と海軍は第2及び第4軍管区と区分されました。

この際、軍服はソ連式のものから旧国防軍の様式に類似したデザインに変更されました。これは、国家人民軍の将兵とドイツ駐留ソ連軍の将兵の混同を防ぐためでしたが、同時に国家人民軍の兵士が「ロシア人の手先」ではなく、あくまで「ドイツの兵隊」であることを国民に示す意味合いもありました。

1956年3月1日までに組織の改組は完了し、国防省及び各軍管区が業務を開始しました。公式にはこの日が東ドイツ再軍備の日とされ、後に3月1日は「国家人民軍記念日（Tag der Nationalen Volksarmee）」と定められました。

組織

兵営人民警察の主要な役職と、その就任者は以下の通りです。

兵営人民警察司令官 (Chef der KVP)
1952年 - 1955年：カール＝ハインツ・ホフマン
1955年 - 1956年：ヴィリー・シュトフ

第一次官 (1. Stellvertreter)
1955年 – 1956年：ハインリヒ・ドルヴェッツェル

参謀長 (Stabschef)
1952年：ベルンハルト・ベーシュラー
1952年 - 1956年：ヴィンツェンツ・ミュラー

政治局長 (Politische Verwaltung)
1952年 - 1955年：ルドルフ・デーリング
1955年 - 1956年：フリードリヒ・ディッケル

教育局長 (Ausbildung)
1953年 - 1954年：フリッツ・ヨーネ
1954年 - 1955年：ハインリヒ・ドルヴェッツェル
1955年 - 1956年：ヘルムート・ボルフカ

後方支援局長 (Rückwärtige Dienste)
1952年 - 1953年：ハインリヒ・ハイチュ
1953年 - 1956年：ヴァルター・アレンシュタイン

建築・居住局長 (Bauwesen und Unterbringung)
1953年 - 1955年：ヴィルヘルム・マイヤー
1955年 - 1956年：ルドルフ・メンツェル

委員 (Kader) - ドイツ社会主義統一党中央委員会から派遣された幹部党員。
1952年：フリッツ・コーン
1952年 - 1956年：エーヴァルト・ムンシュケ

兵営人民警察高級幹部学校長 (KVP-Hochschule für Offiziere)
1952年-1953年：ヴァルター・フレイターク
1953年-1956年：ヴィルヘルム・アダム

脚注

参考文献

Torsten Dietrich, Rüdiger Wenzke: Die getarnte Armee. Geschichte der Kasernierten Volkspolizei der DDR 1952 bis 1956 (= Militärgeschichte der DDR. Bd. 1). Links, Berlin 2001, ISBN 3-86153-242-5.
Daniel Giese: Die SED und ihre Armee. Die NVA zwischen Politisierung und Professionalismus 1956–1965 (= Schriftenreihe der Vierteljahrshefte für Zeitgeschichte. Bd. 85). Oldenbourg Wissenschaftsverlag GmbH, München 2002, ISBN 3-486-64585-4 (Zugleich: Berlin, Humboldt-Univ., Diss., 2001).

関連項目

ドイツ人民警察
国家人民軍
ドイツ民主共和国国境警備隊
ドイツ駐留ソ連軍
警察予備隊 - 日本における類似の組織。陸上自衛隊の前身。
海上警備隊 - 日本における類似の組織。海上自衛隊の前身。
南朝鮮国防警備隊 - 韓国における類似の組織。韓国陸軍の前身。

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