内田忠夫

内田忠夫

内田忠夫（うちだ ただお、1923年7月25日 - 1986年10月15日）は、日本の経済学者です。三重県川越町に生まれ、計量経済学を専門分野として、日本の経済分析と政策提言に重要な足跡を残しました。

経歴と学術的貢献

1947年に東京大学経済学部を卒業後、経済学の研究者の道を歩み始めました。さらなる学びを求め、1951年から1952年にかけてシカゴ大学へ留学し、当時の最先端の経済学に触れました。帰国後、1953年には東京大学教養学部で講師となり、教育者としてのキャリアをスタートさせます。

内田氏の功績として特に重要なのは、日本の計量経済学の発展に貢献したことです。1958年には、既存の研究会を発展解消する形で、東京経済研究センターの設立に尽力しました。この組織は、日本の経済学における共同研究や実証分析を推進する上で中心的な役割を担うことになります。

センター設立と同時期に、内田氏は渡部経彦氏らと共に、日本で初めてとなるマクロ計量モデルを開発しました。これは、日本経済全体の動きを数学的・統計的な手法を用いて分析・予測しようとする先駆的な試みでした。このモデルの質の高さは広く認められ、1960年には政府の中期経済計画（1964年度～1968年度）に正式に導入されるという、学術研究が直接的に政策決定に影響を与えた事例となりました。内田氏は、この時期、経済企画庁経済研究所の主任研究官も務めており、研究成果の社会実装にも深く関わっていました。

1962年には、東北大学より経済学博士の学位を取得しています。学位論文は「計量経済学の方法とその日本経済への適用」と題され、彼の研究が理論だけでなく、日本の経済の実態に即した分析を重視していたことがわかります。

東京大学では、1965年に教養学部の教授に昇任し、長年にわたり後進の育成に力を注ぎました。その教育・研究における顕著な貢献が認められ、1984年には東京大学名誉教授の称号を授与されました。

主な著作

内田氏は、専門書から一般向けの解説書、さらには海外の重要文献の翻訳まで、幅広い著作活動を行いました。

単著:
『近代経済学講座<計量分析篇2>予測と政策』（有斐閣、1968年）
『近代経済学講座<計量分析篇4>企業の計量分析』（有斐閣、1969年）
『日本経済論』（東京大学出版会、1987年）

編著:
『新しい経済分析-理論・計量・予測-』（森嶋通夫、篠原三代平との編著、創文社、1960年）
『日本経済政策の解明<下>』（篠原三代平との編著、東洋経済新報社、1962年）
『二重構造の分析』（玉野井芳郎との編著、東洋経済新報社、1964年）
『経済成長の理論と計測』（稲田献一との共編、東京経済研究センター著、岩波書店、1966年）
『新しい大学像をもとめて』（衛藤瀋吉との編著、日本評論社、1969年）
『国民生活の長期ビジョン-欲求の多様化はどう進むか-』（産業構造審議会総合部会ニーズ小委員会著、日本経済新聞社、1976年）
『新しい繁栄を求めて-国際経済シンポジウム-』（大来佐武郎との編著、日本経済新聞社、1977年）

訳書:
A.C.ピグー『ケインズ一般理論-回顧的考察-』（社会思想研究会出版部、1954年）
G.J.スティグラー『価格の理論<上/・下>』（宮下藤太郎との共訳、有斐閣、1963年-1964年／第3版, 1974年-1976年）
K.E.ボールディング『紛争の一般理論』（衛藤瀋吉との共訳、ダイヤモンド社、1971年）
ダニエル.B.スーツ『スーツ経済学原理<上・下>』（学習研究社、1977年-1979年）
R.M.グッドウィン『現代経済分析』（マグロウヒル好学社、1978年）
* O.エクスタイン『現代不況の解剖――その症状と処方箋』（清水滋との共訳、日本経済新聞社、1979年）

晩年

内田氏は、その学術的功績に対し、正四位勲三等旭日中綬章を授与されました。1986年10月15日、心不全により63歳で逝去しました。彼は日本の計量経済学の確立と普及に貢献し、理論研究と実証分析、そして政策提言を結びつける役割を担った、日本経済学界にとって重要な人物です。

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