内田誠 (随筆家)

内田誠は、1893年3月10日に東京で生まれ、1955年8月13日に没した日本の随筆家であり、俳人としても知られています。父は台湾総督を務めた内田嘉吉です。東京府立第一中学校を経て東京農業大学を卒業後、明治製菓に入社し、宣伝部でその才能を発揮しました。同僚には、後に映画プロデューサーとして名を馳せる藤本真澄や、演劇評論家として知られる戸板康二がいました。

俳人としては「水中亭」の俳号を持ち、「いとう句会」を主催しました。この句会は、久保田万太郎を宗匠とし、渋沢秀雄、徳川夢声、久米正雄、五所平之助、堀内敬三など、各界の著名人が集まる文化サロンのような場所でした。戦時下においても句会は続けられ、文学や芸術に対する情熱が絶えることはありませんでした。特に、徳川夢声とは府立第一中学校時代からの同級生であり、親交が深かったとされています。

内田の家族関係も特筆すべき点があります。妻は田辺茂一の妻の妹であり、田辺とは義兄弟の関係でした。これらの人間関係は、内田の人生と作品に少なからず影響を与えたと考えられます。

内田誠は、多才な文化人であり、数多くの著作を世に残しました。初期の作品としては、1929年に私家版で刊行された『海彼岸』があります。1930年代には、片岡重夫との共著『実際広告の拵へ方と仕方』（1931年）、私家版の『水中亭雑記』（1933年）、『浅黄裏』（1935年）などを発表しています。また、父・内田嘉吉について綴った『父』（1935年）や、日常を切り取ったような『喫茶卓』（1936年）もこの時期の作品です。

1938年には『緑地帯』を刊行し、1940年には『銀座』を発表しました。俳句作品も多く、1940年には『水中亭句集』を刊行しています。さらに、芸術への造詣も深く、『広重』（1940年）といった美術に関する著作も残しています。その後も、『遊魚集』（1941年）、『いかるがの巣』（1943年）、『惚々帳』（1947年）、『会社員』（1947年）など、精力的に執筆活動を続けました。晩年には、随筆集『落穂抄 露伴先生に聞いた話』（1948年）を発表しています。

内田誠の作品は、彼の豊かな感性と幅広い知識、そして人脈の広さを反映しており、日本の近代文化を理解する上で重要な資料となっています。彼の生涯と作品は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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