分裂 (心理学)

分裂（スプリッティング）の理解：善悪の二元論的思考

心理学において「分裂（スプリッティング）」とは、自己や他者を完全に善か悪かのどちらかに分類し、両極端の特性を統合して捉えることができない思考様式を指します。これは「全か無かの思考」とも呼ばれ、対象関係論においては発達段階の一つ、防衛機制の一つとして位置付けられています。

スプリッティングの発達と人間関係

この概念は、ロナルド・フェアバーンらの対象関係論において発展しました。乳幼児期、赤ちゃんは自分の欲求を満たしてくれる親の側面を「良い対象」、満たしてくれない側面を「悪い対象」として区別し、両者を統合することができません。この初期の経験が、後のスプリッティング傾向に影響を与えると考えられています。

大人になってもスプリッティング傾向を持つ人は、相手が自分の欲求を満たすか否かで、その人を全面的に善または悪と見なす傾向があります。このため、人間関係が不安定になりやすく、混沌としたパターンを繰り返したり、同一性や気分の変動に悩まされたりする可能性があります。セラピーにおいても、セラピストがスプリッティングの対象となることがあり、治療の妨げとなるケースも少なくありません。

スプリッティングと精神疾患

スプリッティングは、様々な精神疾患に関連しています。特に境界性パーソナリティ障害（BPD）や自己愛性パーソナリティ障害（NPD）では、顕著な特徴として見られます。

境界性パーソナリティ障害

BPDにおいては、「良い自己」と「悪い自己」、そして「良い対象」と「悪い対象」を峻別する防衛機制としてスプリッティングが機能しています。これは、自己と他者の良い面と悪い面を統合できないことから生じます。DSM-IV-TRの診断基準にもある「理想化と脱価値化の両極端を揺れ動く不安定な対人関係」は、このスプリッティングを反映していると言えるでしょう。

自己愛性パーソナリティ障害

NPDでも、スプリッティングは主要な防衛機制として用いられます。ナルシストは、自尊心を維持するために、自分の意思に従わない人を完全に軽蔑し、自身を完全に肯定的に評価することで、自己の正しさを保とうとします。これは「理想化」と「脱価値化」という防衛機制と密接に関連しています。BPDと異なり、NPDにおけるスプリッティングは「誇大的自己」と「無能的自己」という、より根源的な自己像の分裂として現れます。

スプリッティングの歴史と主要な研究者

スプリッティングという概念は、ピエール・ジャネによって初めて記述され、ジークムント・フロイト、アンナ・フロイトらによってさらに発展しました。メラニー・クラインは、対象関係論において、乳幼児が「良い乳房」と「悪い乳房」を区別する様子をスプリッティングの例として挙げ、これが発達過程における重要なステップであると主張しました。

オットー・カーンバーグは、スプリッティング克服のプロセスを、発達段階として三段階に分類しました。第一段階では善悪の区別がなく、第二段階では善悪が完全に分離され、第三段階でようやく善悪の両面を統合できるようになると説明しています。

スプリッティングとその他の概念

スプリッティングは、解離、認知の歪み、理想化と脱価値化といった概念と密接に関連しています。これらの概念を理解することで、スプリッティングのより深い理解につながります。また、摂食障害など、他の精神疾患との関連性も指摘されています。

結論

スプリッティングは、物事を単純化し、極端な善悪二元論で捉える思考様式です。様々な精神疾患に関連しており、特に境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害においては重要な役割を果たしています。本稿で解説した内容が、スプリッティングの理解の一助となれば幸いです。

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