列車無線アンテナ

列車無線アンテナ：鉄道車両と地上設備を繋ぐ通信機器

列車無線アンテナは、鉄道車両と地上設備間での無線通信を担う重要な装置です。車両と地上設備双方に設置され、列車の運行管理や乗務員間の連絡などに利用されています。その設置場所や種類は、利用される無線方式（空間波無線、誘導無線）や路線によって多様性に富んでいます。

車両へのアンテナ設置

空間波無線システムでは、アンテナは多くの場合、乗務員室付近の屋根上に設置されます。簡易的なシステムでは、乗務員室内部への設置も可能です。一方、地下鉄などで用いられる誘導無線システムでは、車体側面、床下、屋根上など、複数のアンテナが設置されるのが一般的です。

通常、運転台や無線機1台につき、アンテナ1本または1組が設置されますが、複数のアンテナを1箇所に集約したり、編成内のアンテナを先頭車に集約する例もあります。東京メトロ南北線系統などがその一例です。

直通運転への対応

車両に搭載されるアンテナは、走行する路線の無線システムに合わせて選択されます。しかし、複数の路線を直通運転する車両では、複数の種類のアンテナが搭載される場合があります。例えば、東京メトロ03系電車は、自社の誘導無線に加え、直通先の東武鉄道と東急電鉄用の空間波無線アンテナを搭載しています。

一方で、直通先の無線システムが同一の場合、アンテナを共用することもあります。都営地下鉄浅草線と、京浜急行電鉄、京成電鉄、北総鉄道、芝山鉄道など乗り入れ各社は、周波数を切り替える同一の誘導無線システムを使用しているため、直通車両は屋根上のアンテナを共用しています。デジタル空間波無線への移行においても、この共用は維持されています。

新京成電鉄は、かつて空間波無線を使用していましたが、これは直通先の北総鉄道や千葉ニュータウン鉄道の誘導無線とは異なる方式でした。直通先が京成電鉄に変更された後も、この方式は維持されています。これは、新京成電鉄において誘導無線のメリットが乏しく、チャンネルが重複していたことなどが理由として挙げられます。デジタル空間波無線への移行に際しては、京成電鉄と同様のシステムに対応した無線機に更新され、2023年4月22日までにデジタル空間波無線への一本化が完了しています。

無線機やアンテナを共用する直通運転では、周波数帯が共通であれば、事業者によってアンテナ形状が異なっていても問題なく使用できる場合があります。

デジタル無線への対応

空間波無線では、アナログ方式ではアンテナ1本で済むのに対し、デジタル方式では受信品質向上のためダイバーシティ受信として2本のアンテナが設置されるのが一般的です。新造車両では2本とも屋根上に設置されますが、既存車両の改造では、乗務員室への増設が行われるケースが多く、JR東日本のE231系後期車やE531系以降がその例です。

デジタル無線化直前に製造された車両では、2本目のアンテナ設置の準備工事が行われたケースもありました。単に空間波無線システムをデジタル化する際、多くの場合、アナログとデジタルの両方を共存させることはありません。そのため、過渡期には車両側でアナログ・デジタル両方式に対応する必要が生じ、両対応の装置が用いられます。

従来の装置に加えてデジタル専用の装置を増設するケースもあります。東京メトロや東急5000系列などでは、アナログ用1本に加えデジタル用2本の、計3本のアンテナが設置されている車両があります。

直通運転などにより複数の無線装置を備えている車両のデジタル化では、装置を1つに統合することでアンテナを増やすことなく対応した例もあります。

アンテナの形状

屋根上に設置されるアンテナには、主に以下の4つのタイプがあります。

逆L型: 東武鉄道、西武鉄道、東急電鉄、小田急電鉄、新京成電鉄、東京メトロ（直通先用/一部を除く）、都営地下鉄新宿線など
モノポール型: JR（在来線）、相模鉄道（空間波無線）、東武鉄道（一部）、京王電鉄など
円筒型: JR（在来線）、京王電鉄、東急電鉄（直通先用）、東京メトロなど
ホイップ（金属棒）型: 東京都交通局（都電荒川線）
* ブレード（金属板）型: （誘導無線）京成電鉄、京浜急行電鉄、都営地下鉄浅草線など

地上側のアンテナ

空間波無線では、無線基地局のアンテナを柱上に設置するか、トンネルや地下では漏洩同軸ケーブルを用います。誘導無線では、地上区間は架線柱上、トンネルや地下では誘導線を設置します。

製造メーカー

アンテナ技研、HYSエンジニアリングサービス、日本アンテナ、日本電気などが、列車無線アンテナの主要製造メーカーとして挙げられます。

その他の鉄道車両アンテナ

列車無線が届かない山間部路線では、衛星電話とそのアンテナが装備される場合があります。また、新幹線など交流用車両には、架線への通電を検知する静電アンテナが搭載されており、VHF帯無線通信機能も兼ねています。同様のアンテナは在来線の交流用電車や交直流電車にも装備されています。

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