利かし

囲碁における「利かし」とは

囲碁における「利かし」とは、相手が応じざるを得ない手であり、かつ将来的な働きを見込んだ手のことを指します。大辞林では「相手が応ぜざるを得ず、しかも将来のはたらきを含んだ手」と定義されており、将棋においてもほぼ同様の意味で用いられます。

利かしの定義と注意点

利かしの定義には、「先手であること」と「打つことで何らかの利益が見込まれること」が含まれます。ただし、先手で打てるからといって、常に利かしが有効とは限りません。将来の利益や手段を失うマイナスの方が大きい場合、それは「味消し」と呼ばれます。利かしを打つタイミングや、その手が本当に利かしなのか味消しなのかの判断は非常に微妙であり、打ち損ねてしまうこともあります。

プロ棋士の利かしに対する考え方

プロ棋士の間でも、利かしに対する考え方には2つのタイプがあります。一つは比較的ドライに利かしを決め、着実に利益を積み重ねるタイプ。もう一つは可能な限り利きを残し、相手の動きを制限しようとするタイプです。前者の代表としては小林光一氏、後者の代表としては大竹英雄氏や井山裕太氏などが挙げられます。

プロ棋士は利かされることを嫌い、利かしに対する反発から思わぬ戦いが始まることもあります。利かしは、単に目先の利益を追求するだけでなく、その後の展開を左右する重要な要素と言えるでしょう。

利かしの実例

以下に具体的な利かしの例をいくつか紹介します。

高目定石の例

[画像: 高目定石の利かしの図]

高目定石の一形において、黒1のアテは白の左辺への進出を止める利かしとなります。さらに黒3、黒5と利かせることで、外勢を固めることができます。この時、黒3・5を先に打ってしまうと、黒1が利かなくなってしまうため、利かしは手順も重要になります。

また、白8のノゾキも利かしの一種です。黒は切らせるわけにいかないため、9と繋ぐ必要があります。白8の石は、対隅のシチョウアタリになる可能性や、この近辺で戦いが起こった時に役立つ可能性、さらに黒の眼型を奪う意味があり、多くの場合無駄にはなりません。

味消しの例

[画像: 味消しの例の図]

上図の定石で、もし黒が7のカケツギを打たずに手を抜いた場合、同じように白1とノゾいてしまうのは味消しの悪手となります。この形では白が2の点に直接切断して戦えるのに、それを自ら放棄して相手を強化してしまうからです。

利かしの保留

利かしは、いつでも打てば良いというものではありません。時として、利かしを保留することが重要な場合もあります。

[画像: 大ナダレ外マガリ定石の利かし保留の図]

大ナダレ外マガリ定石の一形において、かつては白a、黒bを交換してから1にツグのが定石とされていましたが、現在ではこの交換をせずに黙って白1と打つことが多いです。これは、状況によってaではなくcから利かす可能性もあるため、絶対の利きを保留する手段です。

利き筋

[画像: 利き筋の図]

現在△の2子は取られていますが、将来白石がaのどこかに来ると、白bからアテて▲の5子が逆に取られてしまいます。このため黒は、aの地点に白石があるものと思って戦わねばなりません。このような場合、aは「白の利き筋」と表現されます。

参考図書

• - 山城宏『消しと利かし (烏鷺うろブックス) 』日本棋院　1989年
• - 『実力五段囲碁読本―キカシを考える 』誠文堂新光社　2000年
• - 趙治勲『利かしの哲学（最強囲碁塾）』河出書房新社　2003年
• - 小林覚『「利かし、利き筋」集中講義 (マイコミ囲碁ブックス) 』2007年

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