刻目突帯文土器

刻目突帯文土器：西日本縄文晩期の終末を飾る土器

刻目突帯文土器は、西日本の縄文時代晩期終末を代表する土器であり、その簡素な形状は弥生土器へと連なる特徴を持っています。この土器は、当時の土器構成の中心であった甕（かめ）に施されており、口縁部の外面に突帯が巡り、その突帯には連続した刻み目が文様として刻まれています。火炎土器のような派手さはないものの、実用的な美しさが特徴です。

代表的な刻目突帯文土器としては、夜臼式土器や山ノ寺式土器が挙げられます。特に九州地方では、胴部にも刻目突帯を巡らせた二条刻目突帯文土器（二条甕）が一般的でした。

起源：沿海州との繋がり

興味深いことに、刻目突帯文土器に類似した土器が、沿海州南西部の約4000年前 - 3000年前のシニ・ガイ文化にも見られます。このことから、刻目突帯文土器、ひいてはそれを携えた弥生人の起源を沿海州南西部に求める見方も存在します。

時代背景と文化圏：弥生土器誕生への道

刻目突帯文土器は、西日本一帯から東海地方西部にかけて広く分布しており、土器を中心とした文化圏を形成していました。その中心は北九州であり、その影響力は各地に及んでいました。水田農耕が始まる以前から、西日本では北九州の影響が強く、刻目突帯文土器は西日本の最後の縄文土器として、水田農耕開始の時期にも主要な土器として用いられました。そして、縄文晩期末から弥生早期にかけて、弥生土器が誕生します。

弥生土器誕生後も、西日本では弥生前期において、刻目突帯文土器が土器全体の1割から5割を占めていたことからも、その影響力の大きさが伺えます。

縄文晩期末・弥生早期：土器の構成と技術

この時代は、朝鮮半島系の水稲耕作が始まった時期でもあります。当時の土器は、刻目突帯文土器と、深鉢・浅鉢からなる縄文土器が中心でした。刻目突帯文土器の中には、数パーセント程度、朝鮮半島の技法を使ったものも混じっており、弥生土器誕生の直前の状況を示唆しています。そして、外見は縄文土器でありながら、無文土器の制作技法を使った板付Ⅰ式土器が、最初の弥生土器として登場します。

弥生土器は、刻目突帯文土器の外見を保ちつつ、無文土器の技法で作られるという点で、縄文土器との繋がりを残しています。当時の土器の構成は、縄文晩期と同様に甕と鉢が中心でしたが、水田農耕の開始とともに、祭祀に使われる壺や高坏が増えていきました。これらの壺や高坏は、朝鮮無文土器の系譜を引くものと考えられています。

弥生前期：弥生土器の波及と刻目突帯文土器の残存

弥生前期には、水田農耕を行う弥生文化が西日本各地に急速に広まりましたが、九州南部への波及は遅れました。農耕の伝播とともに、北部九州の弥生土器である遠賀川式土器が、瀬戸内、畿内、尾張などの西日本に伝わりました。しかし、縄文系の刻目突帯文土器も1割から5割程度残存しており、各地の独自性を保っていました。このことから、北九州からの移住者と各地の住民が、一つの水田集落を営んでいたことが推測されます。

西日本への水田と土器の波及は、尾張を中心とした地域で一度停滞します。東日本は西日本とは異なる文化圏を形成しており、文化の伝播が遅れたと考えられています。

藤尾慎一郎氏の説：水稲農耕と土器の関係

国立民族学博物館の藤尾慎一郎氏は、弥生農業は朝鮮半島系であるが、最初の水田稲作に使われた突帯文土器は縄文系であると指摘しています。ただし、数パーセントは朝鮮半島系の製造技法を使ったものが存在し、後の弥生土器（板付Ｉ式）に繋がる要素が見られると言います。祭祀用の土器（壺、高坏）は朝鮮半島系であるのに対し、日常用の土器（甕、浅鉢）は縄文系であるという区分けも示唆しています。

藤尾氏の説は、北部九州以外では、縄文文化を強く保持しながら水田稲作が行われ、その後、北九州からの移住者と共存することで、前期弥生文化が始まったという見方を支持しています。早期に玄界灘沿岸で始まった水稲農耕は、縄文土器の伝統的な製作技法で作られた突帯文土器を使用しており、その中に無文土器の製作技法で作られた甕が数パーセント存在したことから、無文土器的な煮沸用土器の準備もされていたと考えられます。

このように、刻目突帯文土器は、西日本の縄文時代晩期から弥生時代への移行期における文化の複雑な様相を映し出す、重要な遺物と言えるでしょう。

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