前田利保

前田利保：越中富山藩を支えた博物大名

波乱の藩政と博物学への情熱

前田利保は、越中富山藩の第10代藩主として、1800年（寛政12年）、江戸で誕生しました。幼少期に父を亡くした彼は、1811年（文化8年）、9代藩主・利幹の養子となり、1835年（天保6年）、家督を相続しました。しかし、富山藩は深刻な財政難に苦しんでおり、利保の治世も、度重なる凶作に見舞われ、その状況はさらに悪化しました。

財政再建のため、利保は様々な改革に着手しました。まず、藩札の取り扱いなどを担当していた家老を失脚させ、厳格な財政管理を実施しました。しかし、幕府からの巨額の献金要求により、領民や藩士に重税を課せざるを得ない状況に陥り、幕府から参勤交代の免除を受ける事態となりました。

博物学への造詣と産業振興

利保は、福岡藩主の黒田斉清とともに「博物大名」として知られていました。彼は、自ら産物方を設置し、陶器製造や薬草栽培などの産業振興を積極的に推進しました。特に薬草栽培には熱心に取り組み、岩崎灌園や宇田川榕庵を師として本草学を学び、その知識を藩政に活かしました。「本草通串」や「本草徴解」など、多くの薬草関連の著作を残し、自ら薬草の採取調査を行うなど、実践的な研究にも励みました。

更には「赭鞭会」という博物学研究会を主宰し、学術交流や研究成果の発表の場を設けました。この活動は、富山の「売薬版画」の発展にも貢献したとされています。利保は、藩内の流通統制、文武奨励、海防強化などにも取り組み、藩の発展に尽力しました。

家督相続と御家騒動

1846年（弘化3年）、利保は病気のため、六男の利友に家督を譲り隠居しました。しかし、彼は千歳御殿を築き、隠居生活を送りながらも藩政の実権を握り続けました。利友の早世、そして利保の七男・利聲への家督相続後も、藩内では「富山派（利保派）」と「江戸派（毎木派）」の派閥抗争が激化しました。利聲と江戸派は金札増発による財政再建を図りましたが、かえって金融混乱を招き、利保は一時的に勢力を失いました。

しかし、利保は加賀藩主・前田斉泰と手を組み、巻き返しを図り、最終的に江戸派を瓦解させました。この御家騒動は、利保の死後も藩政に影を落としました。1859年（安政6年）、利保が死去すると、加賀藩からの圧力により、利聲は隠居、加賀藩主の子を養子に迎えることとなりました。

種痘の奨励と時代の波

利保は、優れた情報収集能力を持ち、種痘の有効性をいち早く認識していました。藩医を江戸に派遣して技術を習得させ、藩内での種痘普及に尽力しました。1850年（嘉永3年）から種痘の普及に努め、天然痘の流行を防ぐことに貢献しました。

利保の治世は、財政難、凶作、派閥抗争など、多くの困難に直面しましたが、彼は博物学への深い造詣と、藩の発展に尽力する強い意志を持ち続けました。彼の功績は、富山藩の歴史に深く刻まれています。彼の生涯は、時代を生き抜く知恵と、改革への情熱を物語っています。

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