黒田斉清

黒田斉清：蘭癖大名として知られた筑前福岡藩主

黒田斉清（くろだ なりきよ）は、江戸時代後期、筑前福岡藩の第10代藩主です。蘭学を好み、積極的に取り入れたことから「蘭癖大名」として知られています。

生涯

寛政7年（1795年）に、第9代藩主・黒田斉隆の長男として福岡城で生まれました。幼名は松次郎。初めは長順と名乗っていましたが、藩主就任時に将軍徳川家斉から偏諱を受け、斉清と改名しました。

文化元年（1804年）、ロシア使節ニコライ・レザノフが長崎に来航。文化5年（1808年）には、イギリス軍艦フェートン号が長崎港に侵入するフェートン号事件が発生しました。この事件により、長崎警固の兵力を減らしていた佐賀藩が処罰され、福岡藩がその分担を急遽担うことになり、財政的な負担が増大しました。

文政2年（1819年）、蘭学者の安部龍平を直礼城代組に抜擢し、長崎に派遣。文政5年（1822年）には、自らの眼病を理由に、薩摩藩主・島津重豪の九男である斉溥（後の長溥）を娘婿として迎え、養嗣子としました。

文政10年（1827年）、安部龍平の蘭学の師である志筑忠雄が翻訳した『二国会盟録』を提出させました。文政11年（1828年）には、長崎に派遣された藩兵を視察した際、オランダ商館を訪問。商館医であるフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトと面会し、薬学、動植物、世界地理、文化風習など、本草学に関する幅広い分野について意見を交換しました。

斉清はシーボルトに対し、博物学を自ら学ぶ意義について、「外国の情勢、風俗、人類の強弱、法政、蕃育の得失、奇品異類の形状を知ることで国防に役立てたい」と語ったと伝えられています。これらの問答は安部龍平によって『下問雑戴』としてまとめられました。また、シーボルトに日本の植物標本を贈っており、この標本は現在ライデンの国立ハーバリウムに収蔵されています。福岡市美術館には、斉清筆と伝わる原寸大の「鵞鳥図」が所蔵されています。さらに、藩の御用絵師である尾形洞谷に、藩祖・黒田如水ゆかりの家臣団を描いた「黒田二十四騎図」を新たに作成させています。

文政12年（1829年）以降は、長崎警固を養嗣子の斉溥に担当させました。天保2年（1831年）には、安部龍平に自身の海防論をまとめた『海寇窃策』を編纂・補完させています。

天保3年（1832年）頃から隠居を考えるようになり、天保5年（1834年）に斉溥に家督を譲って隠居しました。当時、視力をほとんど失っていたとされています。

天保4年（1833年）には、財政改革のため意見を公募し、眼医者の白水養禎が提案した藩札大量発行による領民への貸付と米での返済、払い下げ米の代金による藩札回収を行う「御家中並郡町浦御救仕法」を採用しました。翌天保5年（1834年）、養禎を御救奉行に任じましたが、藩札の交換価値が暴落し、改革は失敗に終わりました。しかし、この時の博多の賑わいは記録に残っており、博多をどりの起源ともされています。

嘉永4年（1851年）に江戸の桜田上屋敷で亡くなりました。享年57。

業績と人物

斉清は、蘭学や本草学に造詣が深く、富山藩主・前田利保と共に博物大名として知られました。特に鳥類に関心を寄せ、幼少の頃からアヒルを飼育していたと言われています。『鵞経』、『鴨経』、『駿遠信濃卉葉鑑』などの著書があり、小野蘭山の『本草綱目啓蒙』の補訂書である『本草啓蒙補遺』も残しました。子孫には鳥類学者を輩出するなど、黒田家歴代当主の鳥好きの先駆けとなりました。

福岡藩では、先代斉隆の時代から、黒田家先祖の廟所整備が続けられ、斉清の時代にも播磨国姫路において、黒田如水の祖父にあたる黒田重隆や、実母の明石正風娘の廟所が造営されました。現在、これらの廟所は姫路市の指定文化財となっています。

斉清は、学問を奨励し、文化事業を推進することで、藩の発展に貢献しました。その功績は、現在も高く評価されています。

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