剣号作戦

剣号作戦：マリアナ基地への奇襲攻撃計画

剣号作戦、または剣作戦は、太平洋戦争末期に日本軍が立案した、マリアナ諸島のアメリカ軍基地に対するエアボーン攻撃計画です。当初は海軍陸戦隊によるB-29爆撃機の破壊が目的でしたが、後に原子爆弾の制圧も目標に加えられ、陸軍空挺部隊も参加する大規模な作戦となりました。しかし、使用予定の航空機が破壊されたことなどから延期を余儀なくされ、最終的には終戦によって中止となりました。

作戦の背景

1944年7月のサイパン陥落後、マリアナ諸島はアメリカ軍のB-29爆撃機の拠点となり、日本本土は連日のように空襲にさらされるようになりました。日本軍は戦闘機や高射砲で迎撃を試みましたが、B-29の高性能と防御力に苦戦し、硫黄島を中継基地とした空襲も効果を上げることができませんでした。1945年3月末には沖縄戦が始まり、連合国軍は同年11月に本土上陸を計画していました。日本軍も本土決戦に向けた準備を進める一方で、状況は逼迫していました。

作戦計画の立案

1945年5月頃、海軍総隊司令部で、サイパン島のアメリカ軍航空基地のB-29を攻撃する剣作戦が発案されました。これは、武装を撤去した一式陸上攻撃機に精鋭の海軍陸戦隊を乗せ、夜間に強行着陸させてB-29を破壊するという計画でした。硫黄島を中継基地として使えないため、護衛戦闘機を付けることはできず、片道飛行での強行着陸という性質上、参加者の生還は困難と見られていました。

作戦準備

7月下旬の作戦実行に向け、人員や装備の調達、訓練が進められました。剣作戦部隊は三沢基地を拠点とし、一式陸攻20機と予備5機、呉鎮守府第101特別陸戦隊250人で構成されました。陸戦隊は吸盤ゴム付きの手投げ式吸着爆雷や自転車などを装備し、B-29の実物大模型を使った訓練も行われました。また、捕虜となったB-29搭乗員からの聞き取り調査により、マリアナ諸島の基地の状況が詳細に把握されました。

しかし、7月14日から15日にかけてアメリカ海軍機動部隊による空襲を受け、剣作戦用の一式陸攻の大半が破壊されてしまいました。そのため、作戦は次の月明期である8月18日以降に延期されることとなりました。

陸軍空挺部隊の参加と作戦規模の拡大

7月14日の空襲後、陸軍空挺部隊の参加が決まり、剣作戦は陸海共同の「剣号作戦」として規模が拡大されました。陸軍第1挺進連隊の2個中隊（約300人）が加わり、一式陸攻30機による第2剣作戦部隊が編成されました。また、硫黄島とマリアナ諸島のアメリカ軍基地を空襲する「烈作戦」部隊も、剣号作戦に協力することになりました。烈作戦部隊は、銀河陸上爆撃機30機を多銃装備型と爆装型に分けて編成し、敵基地を制圧して剣作戦部隊の突入を援護する計画でした。

剣号作戦の最終陣容

8月6日の広島への原爆投下を受け、急遽テニアン島が攻撃目標に追加されました。最終的に、剣号作戦は以下の陣容で実行されることになりました。

第1剣作戦部隊（指揮官：山岡大二少佐）
第1中隊：陸戦隊200人（グアム攻撃）
第2中隊：陸戦隊100人（テニアン北飛行場攻撃）
飛行隊：一式陸攻30機
第2剣作戦部隊（指揮官：園田直大尉）
第1中隊：陸軍挺進第1連隊200人（サイパン攻撃）
第2中隊：陸軍挺進第1連隊100人（テニアン南飛行場攻撃）
飛行隊：一式陸攻30機
烈作戦部隊
爆撃隊：銀河36機（小型爆弾800kg装備）
* 銃撃隊：銀河36機（20mm機銃2門装備）

終戦と作戦中止

8月15日の日本のポツダム宣言受諾により、剣号作戦は実行されることなく中止となりました。第1剣部隊指揮官の山岡少佐は、徹底抗戦を主張する一部勢力に同調せず、作戦の中止と部隊の解散を決定しました。8月22日、三沢基地で部隊の解散式が行われ、剣号作戦は幻の作戦として終結しました。

剣号作戦は、日本軍が本土決戦に向けた時間稼ぎと、アメリカ軍の戦力に打撃を与えようとした最後の賭けでした。しかし、度重なる延期と、戦局の急激な変化により、実行に移されることはありませんでした。この作戦は、当時の日本軍が置かれていた苦境と、絶望的な状況下でも最後まで戦おうとした将兵たちの姿を今に伝えるものです。

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