力石

力石とは

力石（ちからいし）とは、力試しの為に用いられる大きな石のことです。別名として、磐持石（ばんもちいし）、力試し石（ちからだめしいし）などとも呼ばれ、その呼び方は地方によって様々です。日本では、江戸時代から明治時代にかけて、鍛錬や娯楽として、力石を用いた力試しが盛んに行われていました。また、各地には伝説的な人物が投げたと伝えられる力石も存在します。

力石の起源と歴史

力石の起源には、石占（いしうら）に求める説があります。石占とは、神社や寺院に置かれた特定の石を持ち上げ、その重さによって吉凶や願い事の成就を占うものです。この石占で用いられた石が、次第に娯楽や鍛錬のための力試しに使われるようになったという説です。ただし、全国の力石を調査した高島愼助氏によると、石占的な話はあまり聞かれなかったとのことです。

石占で使われる力石は「重軽石（おもかるいし）」と呼ばれていました。例えば、埼玉県美里町の浅間神社では、何か出来事があった際に石を持ち上げ、軽く感じたら吉、重く感じたら凶と占っていました。岐阜県太田町でも同様の石占が行われ、病気や紛失物、商売の成否などを占っていました。また、出陣や天気、農作物の豊凶を占う際にも、重軽石が用いられました。

力石の存在が確認できる最古の記録は、16世紀に作られた『上杉本洛中洛外図屏風』です。この屏風には、「弁慶石」と名付けられた力石が描かれています。また、『土佐物語』にも、永禄年間に磐持ちが行われた記述があります。1603年の『日葡辞書』には「力試しをする石」として力石の項目が記載されています。江戸時代の連歌には「文治二年の力石もつ」という句があり、文治2年（1186年）の銘を持つか、そのように伝えられる力石が存在したと推測されています。現存する力石で最も古い年号が刻まれているのは、寛永9年（1632年）のものです。

江戸時代から明治時代にかけて、力石を用いた力試しは、全国各地の村や町で日常的に行われていました。個人で体を鍛えたり、集団で互いの力を競い合ったりしました。神社の祭りでは、出し物の一つとして力試しが披露されることもありました。

20世紀後半になると、力試しの習慣は廃れ、多くの力石が行方不明になりました。しかし、一部の地域では、住民が力石の喪失を惜しみ、神社に奉納したり、自治体の民俗文化資料館に展示したり、看板を立てて由来を示したりするなど、保存に努めました。21世紀初頭までに、高島愼助氏が調査した力石の数は約14,000個に上り、市町村が有形文化財に指定した力石は約350個、無形文化財に指定された力持ち（力試し）は1つあります。また、神社の祭りやイベントで、18の力持ち大会が開催されています。

力石の特徴

力石の形は、表面が滑らかな楕円形のものが多いです。これは、持ち上げにくい一方、体に傷をつけずに済むようにと考えられたからです。ほとんどの力石は60キログラム以上あり、米俵より軽いと、力試しの意味がないと考えられていたようです。中には300キログラムに達するものもあります。重すぎる石は一人で持ち上げることは不可能ですが、そのような石には別の挑戦方法が用意されていました。

人々は、山や川原で手ごろな大きさの石を見つけて、村に持ち帰り、力石としていました。重さの異なる複数の石を用意することも多かったようです。力石の設置場所は、神社や寺院、空き地、道端、民家の庭など、若者が集まりやすい場所が選ばれていました。

力石には、文字が刻まれることもありました。「力石」という普通名詞のほか、石に与えられた固有名や、持ち上げた人の名前と日付などを刻んだものがあります。しかし、ほとんどの力石は無銘であり、その慣習や記憶が薄れると、ただの大きな石と区別がつかなくなってしまいます。静岡県三島市の右内神社には、3つの力石があり、そのうちの1つは「女石」と呼ばれ、重さ約86キログラムで、力自慢の女性が持ち上げたと伝えられています。

山形県鶴岡市大泉では、米7斗5升分から6斗石、5斗石の力石があり、肩上げ・両ざし・片手ざしなどで競い合っていました。

力持ち・力試しの方法

力石を持ち上げることは、力持ち、力試し、石抱え、担ぎ上げ、盤持ちなどと呼ばれます。典型的な方法は、石を抱えて持ち上げることです。持ち上げ方には、胸まで、肩まで、頭上まで、体に付けないなど、様々な方法があります。また、持ち上げた石を担いで歩いたり、体の周りを回したりすることもありました。石に縄をかけて持ちやすくしたり、非常に重い石の場合は、石が地面から離れれば良しとしたり、倒れている石を引き起こせば良いとしたりするなど、石の重さと個人の体力に応じて様々な条件と目標が設定されていました。

力試しに挑戦するのは、主に村の若い男たちでしたが、筋力は40代後半まであまり衰えないため、中高年の男が加わることもありました。武道を習うのが一般的でなかった村落では、重い物を持ち上げて運べる身体能力は、格闘能力の優劣に繋がると考えられていました。中高年の男性が強い力を披露することは、若者組の増長を抑える面でも重要でした。娯楽の少ない環境では、力試しは若者たちのスポーツの一種でした。通過儀礼として、力石を持ち上げられると一人前とみなされた村もありますが、過去に1人か2人しか持ち上げられなかったという石もあり、力試しの位置付けは多様でした。

米問屋では、働く若者を採用する際に、力石を用いていました。

伝説上の力石

各地には、伝説上の人物が持ち上げたり投げたりしたと伝えられる力石が残されています。これらの力石は、たいていが一人では持ち上げられない巨石です。

伝説の記録例

太田康資の伝説：普通の男が30人かかって持ち上げる大石を、一人で軽く持ち上げた。（『関東古戦録』巻六、『小田原北条記』巻五）
戸村義国の伝説：竜昌院寺内に、112～130キログラム超の大石を置き、持ち上げた。
浦和市（現さいたま市）の医王寺の力石：銘に「寛政5年（1793年）5月29日」とあり、約280キログラムの石を、当時の白幡の若者が持ち上げた。
江戸時代の角力、久米の森の伝説：10人や15人では持てない180センチ四方の大石を、一人で運んだ。（加藤寛斎『奥郡里間数記』）
* 大和国の力士、大の松為次郎の伝説：身長160センチ、体重74キログラム以上であったが、約154キログラムの力石を軽々と持ち上げた。

このように、力石は、単なる石ではなく、人々の生活や文化と深く結びついたものでした。力試しを通じて、人々は自身の力を試し、地域社会との結びつきを深めていたのです。

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