加速装置

加速装置とは、主にSF作品に登場する、サイボーグやアンドロイドなどの機械体に搭載される架空の機体制御システムです。機体制御知能の知覚・思考・運動速度を、モード切替によって高速化する機構を指します。また、それを生身の人間で実現させる技術も含まれます。

日本では、石ノ森章太郎の漫画『サイボーグ009』（1964年）に登場するものが広く知られており、日本での知名度はこの作品に大きく起因します。

加速装置の原型

人間の反応速度を加速するというアイデアは、H・G・ウェルズの短編小説『新加速剤』（1901年）に最初期に登場します。ただし、この作品では加速能力を得るために薬物が使用されています。

エドモンド・ハミルトンのキャプテン・フューチャーシリーズ『謎の宇宙船強奪団 (Star Trail to Glory)』（1941年）、アルフレッド・ベスターの『虎よ、虎よ!』（1956年）には、機械装置としての加速装置が登場します。特に『虎よ、虎よ!』では、装置が外付けではなく体の中に埋め込まれ、「奥歯に隠されたスイッチ」で装置を起動するなど、『009』に繋がるスタイルの原型が見られます。

日本の漫画作品では、手塚治虫が『新世界ルルー』（1951年）および『ふしぎな少年』（1961年）にて、自分以外の時間を停止させる能力を描いています。

『8マン』

『8マン』（1963年、平井和正原作、桑田次郎作画）では、最高3000km/hで走れる能力として加速装置の設定が採用されました。
加速装置は、『鉄腕アトム』、『鉄人28号』との差異化、オリジナリティとして採用されています。

本作の加速装置は、「加速装置」として明確に定義されたものではありません。人間の神経伝達速度の1000倍で電子頭脳からの命令を体の末端まで送る事ができるため、人間よりも1000倍速く行動することができるとされています。生体脳を搭載したサイボーグである谷ケンも8マンと同等の速度で行動できますが、加速の重圧に生身の脳が耐えられず自滅してしまう弱点があります。

小説版『サイボーグ・ブルース』では、主人公アーネスト・ライトおよび暗殺者はサイボーグであり、生体脳を搭載したまま超音速で行動しています。加速中は生体脳の思考が追いつかないため、命令をキャッシュした電子頭脳によって機体がコントロールされると設定されています。

『サイボーグ009』

加速装置のスイッチは奥歯の内側に設けられ、舌で操作します。ブラックゴースト製ハイエンド戦闘サイボーグの基本装備の一つであり、最初の実験体である002（ジェット・リンク）が最初期型を搭載しています。009（島村ジョー）以降に改造されたサイボーグ体はほぼ全機に標準搭載され、各機体に特徴的な装備が付与されています。

加速装置の使用中、使用者の体感では世界がゆっくり動く、あるいはほぼ静止し、「加速」に応じて音は低音域にシフトします。周囲から見て加速された機体の運動は目にも留まらぬ速度となり、瞬時に移動したかに見えることもあります。発する音声は可聴域を超えて超音波帯にシフトするため、加速中の個体との意思疎通は内蔵無線機やテレパシーによって行われます。

基本的に時間を操作するテクノロジーではないため、使用によって加齢が進むことはありません。加速装置そのものの使用制限は特に設定されていませんが、「加速」中の機体は超高速高負荷運動を行っているため、エネルギーと各部機構を消耗し、放熱が追いつかず過熱します。戦闘用でない服を着ていた場合、空気との摩擦熱で燃えてしまうほどです。機体の連続高負荷限界が加速行動を制限し、「加速装置の使用限界」とされます。加速モードに入ったまま静止などの緩慢な動作をしている分には、この制限は延長されます。「結晶時間」のエピソードでは、加速装置の誤作動によって解除不能に陥り、擬似的な時間停止状態に陥って苦悩する009が描かれています。

加速装置の基本コンセプトは、機体の高出力を生かした高速・高機動行動を行わせる際に、特殊な訓練を要さず機体の制御精度を確保するため、補助電脳の援用などで思考速度を上げる機構と機体の出力リミッタを連動させたものと考えられます。

アニメ版『スカルマン』では、古代の遺物であるスカルマスクに加速装置らしき機構が内蔵されていました。装着者が生身であるため、使用可能時間はきわめて短く、肉体に重度の損傷を被るというデメリットが存在します。サイボーグ化することで克服したのが、ブラックゴースト首領のスカールであり、その再現装置が後の00シリーズサイボーグへと受け継がれたとされています。

加速装置の演出上の問題

加速装置は時間を操作するものではないため、加速中の物体に対する物理法則は通常と同じものが適用されます。従って平面の走行は加速できても、推進装置を用いない限り、重力下での上下動を加速することは出来ません。加速中の機体が全方向に高速に運動する描写は、足場がない限り基本的にあり得ません。加速者は加速に応じて重力加速度が減じていると感じるはずです。

山本弘の短編小説『奥歯のスイッチを入れろ』や園田健一の漫画『ブレット・ザ・ウィザード』では、「加速中であっても自由落下速度は変化しない」ことがストーリーに活かされています。

フィクションに登場する加速装置

サイボーグ009以降も多くのSF作品にガジェットとして登場しています。

関連項目

縮地
瞬間移動
時間停止
タイムマシン
* 低速度撮影

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