勅額火事

勅額火事（ちょくがくかじ）

勅額火事は、元禄11年9月6日（1698年10月9日）に江戸で発生した大規模な火災です。この火事は、元禄の大火の一つとして知られ、かつては中堂火事とも呼ばれていました。江戸の街に大きな被害をもたらしたこの火事について、その経緯、名称の由来、被害状況などを詳しく見ていきましょう。

火災の経緯

元禄11年9月6日の昼前、京橋南鍋町（現在の山下町1丁目）にあった仕立物屋・九右衛門宅から出火しました。当時、南風が吹いていたため、火は瞬く間に燃え広がり、日蔭町、数寄屋橋門内に延焼しました。多くの大名屋敷や旗本屋敷が炎に包まれ、さらに火は神田橋の外へと広がりました。

火の勢いは衰えることなく、駿河台から下谷、神田明神下、湯島天神下へと燃え移り、下谷池之端の出合茶屋をなぎ倒しながら浅草へと拡大しました。その結果、寛永寺の境内にも火が及び、本殿や新築されたばかりの仁王門、厳有院（徳川家綱廟）などが焼失するという大惨事となりました。火はさらに広がり、三ノ輪から千住にまで燃え広がりました。一方、日本橋方面に燃え広がった火は両国橋を焼き落とし、本所にまで達しました。

火災は半日以上にわたって燃え続けましたが、午後10時頃にようやく大雨が降り始め、鎮火しました。

被害状況

この大火による死者は3000人以上にも及び、多くの人々が命を落としました。また、大名屋敷や寺院も多数焼失し、江戸の街は大きな被害を受けました。高家の吉良義央もこの火事で鍜治場氏上屋敷を失い、呉服橋に転居することになりました。この際、上杉綱憲が建築費として2万5000両余を提供したとされています。なお、吉良義央が屋敷を構えた場所は、現在のパシフィックセンチュリープレイス丸の内にあたります。

名称の由来

勅額火事という名前は、この火事が起きた背景に由来しています。この年の8月には、上野寛永寺の根本中堂・文殊楼・仁王門が落成し、9月3日には落慶法要が執り行われました。その直後の9月6日、東山天皇から寛永寺に贈られる勅額が京都から江戸に到着しました。この勅額には、根本中堂に掲げるために「瑠璃殿」の宸筆が彫り込まれていました。この勅額が江戸に到着した日に大火が発生したことから、この火事は「勅額火事」と呼ばれるようになりました。

この火事で寛永寺の境内も延焼しましたが、幸いにも根本中堂と文殊楼は焼失を免れました。

参考資料

『日本史小百科 22 災害』 荒川秀俊、宇佐美龍夫、近藤出版社、1985年
江戸の火事

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