動機づけ面接

動機づけ面接 (Motivational Interviewing, MI)

動機づけ面接（どうきづけめんせつ、英語では Motivational Interviewing, MI）は、米国ニューメキシコ大学のウィリアム・R・ミラー名誉教授と、英国カーディフ大学のステファン・ロルニック教授が中心となり発展させたカウンセリング手法です。このアプローチは、もともとアルコールに関する問題を抱える人たちへの効果的な面接技術を探る研究の中で生まれ、その成功事例を分析することで、アルコール依存症の治療法として体系化されました。

アプローチの特徴と理念

動機づけ面接の根幹にあるのは、クライエントの心の中にある複雑な感情、特に変化したいという思いと現状を維持したいという思いの間で揺れ動く「アンビバレンス（両価性）」に光を当てることです。カウンセラーは、この相反する感情を丁寧に探求し、クライエント自身が内なる葛藤を理解し、乗り越えられるようサポートします。その目的は、クライエントの内側から変化への動機（内発的動機）を呼び覚まし、自らの意思で行動を変えるプロセスを促進することにあります。

この面接スタイルは、クライエント中心療法を基礎としながらも、単に追従するだけでなく、変化の方向へ穏やかにガイドする「準指示的」な側面も持ち合わせています。カウンセラーは、クライエントに対して善悪を判断したり、一方的に問題点を指摘したり、対立したりすることはありません。代わりに、クライエントの自律性を深く尊重し、温かく共感しながら、協力的な関係性を築くことに重点を置きます。

面接では、クライエントが自身の行動がもたらすかもしれない潜在的な問題や、これまでの経験、リスクなどについて自ら気づくよう促したり、あるいは、より望ましい未来像を具体的に描き、それを実現したいという動機を強める手助けをしたりします。最終的には、クライエントが現在の行動を異なる角度から見つめ直し、変化を選択することによってどのようなメリットが得られるかを自ら考えるようになることを目指します。

動機づけ面接の手法では、クライエントが現状をどのように認識し、どのような未来を望んでいるのかといった感情や価値観を、カウンセラーが共に深く掘り下げていきます。この共同探索の過程で、クライエント自身の内なる矛盾や両価性を浮き彫りにし、それを解消する方向へと導くことで、行動変容を促します。この考え方は、カール・ロジャーズのクライエント中心療法の発展形、特に「変わりたい気持ちがまだ固まっていない」クライエントへの関わり方に近いと指摘されています。また、人の行動変容が特定の段階を経て進むという「多理論統合モデル（変容ステージモデル）」の知見も、このアプローチの背景に影響を与えています。動機づけ面接は、面接に来るクライエントの動機付けのレベルが多様であることを現実として受け入れ、その時点での準備性に応じた関わり方を重視します。

4つの基本原理

動機づけ面接は、以下の4つの重要な原理に基づき実践されます（第2版に準拠）。

共感を表現する: クライエントの視点や感情を正確に理解しようと努め、その理解を示すことで、安全で受け入れられていると感じられる雰囲気を作ります。これにより、クライエントは安心して心の内を語ることができます。
矛盾を拡大する: クライエントが理想とする生き方や目標と、現在の行動パターンとの間に存在するギャップや矛盾を探求します。この探求を通じて、クライエント自身が変化を選ぶことの重要性やメリットについて深く考えるよう促します。
抵抗を手玉に取る: クライエントが変化に対してためらったり、抵抗を示したりする反応は、病的なものではなく、変化が伴う当然の心理的反応として受け入れます。抵抗に真っ向から対抗するのではなく、それに寄り添い、別の角度から検討する機会と捉えます。
自己効力感をサポートする: クライエントが、自分には変化を起こす力があると信じられるよう支援します。例え現状維持を選択した場合であっても、その決定を尊重し、クライエント自身の能力や強みに焦点を当てることで、成功体験や自信に繋がるよう働きかけます。

これらの原理に導かれながら、カウンセラーはクライエントとの間に確固たる信頼関係を築き、クライエントが「変化したい」という意思を表す言葉（これを「チェンジトーク」と呼びます）を自然と引き出すことを目指します。最終的には、変化への具体的な行動に移るための決意を示す言葉（コミットメント言語）へと繋げていくことが重要なゴールとなります。

有効性と応用分野

動機づけ面接は、これまでの調査や臨床研究によって、さまざまな行動変容を促進する上で有効性が報告されています。具体的には、アルコールや薬物依存症、ギャンブル依存、喫煙習慣からの脱却、食習慣や運動習慣の改善、ダイエット、そしてHIV感染に関連する危険行動の低減などです。また、肥満、高血圧、高コレステロール血症といった健康問題の改善や、糖尿病患者における血糖コントロール、体重管理、食事療法の遵守といった特定の健康指標の改善にも寄与する可能性が示されています。他の認知行動療法などと組み合わせることで、薬物依存症治療における効果も確認されています。

ただし、禁煙支援に関する大規模な研究レビューでは、動機づけ面接法が有効である可能性は示唆されたものの、その科学的な証拠の質は中程度であると結論付けられています。研究の質や実施方法のばらつき、あるいは報告の偏りの可能性などから、その結果の解釈には慎重さが求められることも指摘されています。

動機づけ面接の技術は、問題飲酒に対する集中的な支援プログラムである「動機づけ強化療法（Motivational Enhancement Therapy, MET）」として体系化されたり、教育心理学、教育工学、産業組織論、ポジティブ心理学などの幅広い分野で「コーチング」の手法として応用が検討・実践されたりしています。

育成と普及活動

動機づけ面接の適切な実践者を育成するため、開発者のミラーとロルニックによって「Motivational Interviewing Network of Trainers（MINT）」という国際的なネットワークが設立されました。MINTは世界各地でトレーナーを養成しており、公式プログラムを修了した「MINTトレーナー」が、動機づけ面接の研修を提供しています。日本国内においてもMINTメンバーが活動しており、一般社団法人日本動機づけ面接協会（JAMI）や、日本動機づけ面接学会（JasMINe）などが中心となり、国内での普及、関連情報の提供、研修会の実施、研究活動などを行っています。JAMIは「動機づけ面接」の商標登録も行い、MINTと連携した活動を展開しています。

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