勝手にしやがれ (映画)

勝手にしやがれ

『勝手にしやがれ』（フランス語原題：À bout de souffle、直訳は「息切れ」）は、1960年に公開されたフランスの犯罪ドラマ映画です。監督・脚本はヌーヴェルヴァーグの中心的人物であるジャン＝リュック・ゴダールが務め、ジャン＝ポール・ベルモンドとジーン・セバーグが主演しました。本作はヌーヴェルヴァーグ運動を代表する記念碑的な作品として、その後の映画表現に多大な影響を与えました。

あらすじ

アメリカの俳優ハンフリー・ボガートに憧れるミシェルは、マルセイユで自動車を盗み、追跡してきた警察官を銃で撃ち殺してしまいます。文無しでパリに逃亡したミシェルは、かつて関係を持ったアメリカ人の女性、パトリシアと再会し、彼女と行動を共にします。しかし、新聞記者の卵としてパリで自立しようとするパトリシアは、次第にミシェルが追われる身であることを知ってしまいます。フランスへの執着が薄いミシェルと、パリでのキャリアを築きたいパトリシア。二人の関係はすれ違い、やがてパトリシアはミシェルを警察に通報することを決意します。追いつめられたミシェルが最後に呟く「最低だ」という言葉に対し、その意味を尋ねるパトリシアの姿が、印象的な結末として描かれます。

製作背景

本作は、プロデューサーのジョルジュ・ド・ボールガールが、当時20世紀フォックスの宣伝部に勤めていたジャン＝リュック・ゴダールと出会ったことから企画が始まります。ボールガールは以前手掛けた作品の興行的失敗で負債を抱えており、新たなヒット作、特にヌーヴェルヴァーグの波に乗る作品を求めていました。ゴダールが持ち込んだ企画の一つに、フランソワ・トリュフォーがタブロイド紙の記事から着想を得て書いたわずか4ページの粗筋がありました。カンヌ映画祭で成功を収めたトリュフォーの名声と、同年のベルリン映画祭で金熊賞を受賞したクロード・シャブロルの名前を借りることで、ボールガールは資金調達に成功します。撮影監督には、ゴダールが希望した新人ではなく、ボールガールの意向で経験豊富なラウール・クタールが起用されることになりました。

撮影と公開、そして日本

撮影は1959年8月17日から約一ヶ月間、パリとマルセイユ近郊で行われました。公開前には試写会が行われ、映画倫理規定管理委員会は本作を18歳未満入場禁止と決定し、特定のシーンの削除を要求しました。この削除対象となったのは、アメリカ大統領アイゼンハワーとフランス大統領ド・ゴールがシャンゼリゼ通りを行進する場面でした。このシーンをカットせずに見た日本の評論家である荻昌弘は、大統領と主人公を同一ショットに収めることで生まれる社会批評的なユーモアや不思議な感覚が失われることを指摘しています。

日本では、本国公開よりわずか10日後の1960年 3月26日に公開されました。当時新外映に勤務していた秦早穂子がパリで試写を見て即座に買い付けを決め、原題「À bout de souffle」（「息せき切って」の意）から大きく飛躍した「勝手にしやがれ」という邦題を命名したと言われています。フランスでは18歳未満入場禁止だったにもかかわらず、公開直後から多くの観客を集め、パリでのロードショーでは約26万人を動員する成功を収めました。フランスにおける年齢制限は1975年に解除されました。

出演者

主演のジャン＝ポール・ベルモンドがミシェル・ポワカールを、ジーン・セバーグがパトリシア・フランキーニを演じました。その他の主要キャストにはダニエル・ブーランジェ（ヴィタル刑事役）、ジャン＝ピエール・メルヴィル（パルベレスコ役）などがいます。また、監督のジャン＝リュック・ゴダール自身も密告者として出演しているほか、『カイエ・デュ・シネマ』の編集者や映画監督、作家など、当時のフランス映画界や文化界の著名人が多数カメオ出演している点も見どころの一つです。

評価と影響

『勝手にしやがれ』は公開当初から高い評価を受け、イギリスの『Sight&Sound』誌やフランスの『カイエ・デュ・シネマ』誌、日本の『キネマ旬報』などが発表する「映画史上最高の作品」ランキングにおいて常に上位にランクインしています。特にヌーヴェルヴァーグの革新的な技法、例えばジャンプカットやロケーション撮影、同時録音、型破りなストーリーテリングなどは、その後の世界中の映画製作に計り知れない影響を与えました。

備考

日本の邦題「勝手にしやがれ」は、川内康範が同時期に連載していた小説のタイトルに由来するという説があります。また、この邦題は後年、沢田研二のヒット曲やセックス・ピストルズのアルバムの邦題にも影響を与えました。本作はアメリカやイギリスでは原題に近い『Breathless』のタイトルで公開され、1983年には同タイトルでアメリカでのリメイク版も製作されています。

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