勝本清一郎

勝本清一郎の生涯

勝本清一郎（かつもと せいいちろう）は、1899年5月5日に東京で生まれ、1967年3月23日に生涯を閉じました。彼は文芸評論家として知られ、日本ペンクラブの創立にも深く関わりました。

若き日の活動

1923年に慶應義塾大学文学部を卒業後、勝本はプロレタリア文学や演劇運動に身を投じました。また、俳人としても才能を発揮し、1917年には高浜虚子に師事。「ホトトギス」に多くの写生文を掲載しました。さらに、十五歳から三味線を習い、多岐にわたる芸術的関心を示しました。

恋愛と事件

勝本は、1921年に永井荷風の元妻であり、舞踊家として活躍していた藤間静枝（藤蔭静樹）に関する評論を『三田文学』に発表。これを機に、40代の静枝と恋人関係になります。勝本は静枝のために舞踊台本を執筆し、自作の脚本を演出するなど深く関わります。しかし、1927年、徳田秋聲が結婚を考えていた山田順子が勝本のもとに走ったことで、静枝との関係は終わりを迎えます。この出来事は、当時大きな話題となりました。勝本は順子との関係を私小説「肉体の距離」として発表しますが、順子とも1年ほどで別れます。この複雑な四角関係は、徳田秋聲によって私小説『仮装人物』として描かれました。

文学活動と弾圧

1929年、勝本は島崎藤村の子・蓊助と共にベルリンへ外遊し、帰国後、『前衛の文学』（1930年）を刊行。この時期、藤森成吉とともにハリコフ会議に出席し、日本のプロレタリア文学運動の現状を報告しました。帰国後、勝本は警察に虐殺された小林多喜二の『一九二八年三月十五日』の原稿を預かり、第一銀行本店地下室金庫に隠しました。戦後、この原稿は勝本によって校訂され、『小林多喜二全集第二巻』として出版されました。1938年、勝本は治安維持法違反で検挙されます。

戦後の活動

第二次世界大戦後、勝本は社団法人日本ユネスコ協会連盟の理事長を務めました。また、文学資料の収集家としても知られ、『透谷全集』（岩波書店、1950-1955年）の編集では、その厳密な校訂が評価されました。勝本は、文芸評論家としての活動だけでなく、文学資料の保存と研究にも多大な貢献をしました。

著書

勝本は、数多くの著書を残しました。主なものとして、プロレタリア文学運動時代の著作『赤色戦線を行く』（1930年）、『前衛の文学』（1930年）、文芸評論『日本文学の世界的位置』（1936年）、『近代文学ノート』（1948年）、随筆集『こころの遠近』（1965年）があります。没後には、選集として『近代文学ノート』（みすず書房、1979-80年）が刊行されました。また、共編著として『現代短歌の源流』（1963年）、『座談会 明治文学史』（1961年）、『座談会 大正文学史』（1965年）、『座談会 明治・大正文学史』（2000年）、校訂として『北村透谷選集』（1978年）があります。

勝本清一郎は、文芸評論家としてだけでなく、文学運動家、演劇人、そして文学資料の収集家として、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。彼の波乱に満ちた人生と、文学への情熱は、後世に語り継がれるべきものです。

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