勝訴ストリップ

『勝訴ストリップ』（しょうそストリップ、英題：Shouso Strip、Winning Strip）は、2000年3月31日に東芝EMI（現：ユニバーサルミュージック）からリリースされた、シンガーソングライター椎名林檎の2作目のスタジオアルバムです。前作『無罪モラトリアム』から約1年ぶりのアルバムとなり、250万枚を超えるダブルミリオンセールスを記録しました。

アルバム概要

先行シングルとしてリリースされた『本能』『ギブス』『罪と罰』を含む全13曲を収録しています。ライブで先行披露されていた『アイデンティティ』も、このアルバムで初めて音源化されました。初回限定盤は特殊スリーブケース入りの豪華ブックレット仕様となっています。

オリコン週間アルバムチャートでは初の首位を獲得し、最終的には250万枚以上のセールスを記録。この作品によって、椎名林檎はトップアーティストとしての地位を確立しました。また、日本ゴールドディスク大賞ロック・アルバム・オブ・ザ・イヤー、第42回日本レコード大賞ベストアルバム賞を受賞するなど、音楽業界からも高い評価を得ています。さらに、2000年度のEMIグループ全世界アルバム売上では、200万枚を記録し第9位にランクインしました。

椎名林檎は、自らを「新宿系」と名乗り、東芝EMIの担当ディレクター山口一樹やアートディレクターの木村豊（CENTRAL67）らを中心としたブランディングチームと共に、虚実入り混じる「椎名林檎」というブランドイメージを作り上げました。前作『無罪モラトリアム』と今作の成功により、椎名はカリスマ的な存在となりました。しかし、それは送り手側の予想をはるかに超えるものであり、作品は彼女の自意識の表現そのものとして受け止められました。本来は自意識を吐露するタイプのシンガーソングライターではなく、ファンやレコード会社の要求に応えるプロの音楽作家志向だった椎名は、その状況に違和感を抱き、その後の作品や音楽活動で軌道修正を図ることになります。

制作背景

アルバムの制作は1999年夏に開始され、その夏が終わるころにはすべてのレコーディングが終了していました。当初は過去の曲を中心に収録する予定で、『無罪モラトリアム』の延長のようなアルバムになるはずでしたが、椎名が多忙でレコーディングできなかった新曲を入れようと決めたことで、最初の収録リストはリセットされました。

スタッフが椎名のイメージを最優先する雰囲気を作ってくれたおかげで、「これはこの人じゃなきゃダメだし、これは私が弾く」という具合に、レコーディングは彼女の一存で進められました。椎名本人は、前作よりも自分に正直に、エゴイスティックに制作できたと語っています。前作は一曲一曲が独立してシングルコレクションのような構成でしたが、今作はアルバム全体を通して聴くことを前提に作られています。

シンメトリーへのこだわり

本作では、収録曲の配置が7曲目の『罪と罰』を中心にシンメトリーに並べられているほか、総合収録時間も55分55秒と徹底的なこだわりを見せています。BLANKEY JET CITYの浅井健一がエレキギターを弾くと決まった段階で、中心に『罪と罰』を配置し、13曲入りのアルバムにするということは決定していました。また、オープニングとエンディングの曲も決まっていました。合計時間を55分55秒にしたのは、『無罪モラトリアム』が「短い」と言われたため、少し延ばしたとのことです。このようなシンメトリーに対するこだわりは、以降の作品や東京事変の作品にも反映されています。

また、本作の略称は「勝訴」と「ストリップ」の頭文字からそれぞれをとり、ブックレットに「SS」と表記されています。

収録曲解説

虚言症：椎名が高校生のころに制作した曲で、本作までに発表してきた曲の中でもっとも古い曲。歌詞に出てくる「君」は、当時の新聞に載っていた自殺を図った少女をモデルにしている。当初のタイトルは「大丈夫」だったが、本作に収録するにあたり「虚言症」と改題された。
浴室：アルバム発売前にフルが無料配信された楽曲。「生死とかを超越した融合を実現したい」という欲望と提案について歌った曲。ジャン＝フィリップ・トゥーサンの同名小説を原作とした映画をイメージして制作された。プログラミング主体の楽曲で、2003年には英語詞でアレンジの異なる「la salle de bain」としてカップリング曲にも収録された。
弁解ドビュッシー：デビュー当時、フェイバリット・アーティストにドビュッシーを挙げた椎名に対し、周囲が「なぜ？」という反応を示したことと、辛い恋をしていたことから生まれた曲。ドビュッシー好きであること、辛い恋をしていることに対する弁解などないという思いが込められている。
ギブス：『罪と罰』と同時発売されたシングル曲。シングル盤とアルバム盤で異なるアレンジが施されており、アルバム盤では次曲『闇に降る雨』に繋がる構成となっている。
闇に降る雨：ミュージックビデオも制作された楽曲で、椎名曰く「私の中での演歌的な部分を全部集めたような曲」。サビのフレーズに「当時よくこんな事言えたなぁ」と振り返っている。
アイデンティティ：ライブで先行披露されていた楽曲。レコード会社との契約交渉の際に言われた言葉に対する反骨精神から生まれた曲である。
罪と罰：『ギブス』と同時発売されたシングル曲。BLANKEY JET CITYの浅井健一がエレキギターと歯笛で参加している。
ストイシズム：前作『無罪モラトリアム』に収録されている「積木遊び」のような箸休め的な曲。演奏時間は2分を切る椎名の楽曲の中で最短の楽曲。歌詞カードに書かれている歌詞の他に、様々な音をミックスして作られており、「罪と罰」の歌詞を逆から言っている箇所もある。
月に負け犬：椎名が18歳の頃に製作された楽曲。椎名の楽曲では珍しく一人称が「僕」になっている。レコード会社の人間に「結局、虚勢を張ってんだか張ってねえんだかわかんねえんだよ！」と怒鳴られたことがタイトルに繋がっている。
サカナ：ライブで披露されたのは一度のみ。
病床パブリック：1999年1月に発売されたシングル『ここでキスして。』がヒットを続ける最中、病床で倒れた時に製作された曲。歌詞中の「快感ジャガー」は浅井健一の愛車を指している。
本能：100万枚近くを売り上げた、4枚目のシングルにして最大のヒット曲。ナース姿でガラスを叩き割るミュージックビデオが話題となった。
* 依存症：椎名曰く「自殺と言うか、何もかも全部疲れた」という曲。詞曲ともに、次作アルバムに対する投げかけが行われている。歌詞カードに空白になっている部分には、当時の椎名の愛車であったメルセデス・ベンツの愛称「ヒトラー」と入るが、問題となりプロモーション用のサンプル盤が回収された。

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