勧善懲悪委員会

勧善懲悪委員会（ムタワ）とは

勧善懲悪委員会（かんぜんちょうあくいいんかい、アラビア語: هيئة الأمر بالمعروف والنهي عن المنكر、英語: Committee for the Promotion of Virtue and the Prevention of Vice、略称: CPVPV）は、サウジアラビアの宗教警察であり、「ムタワ」とも呼ばれています。正式名称は「徳の奨励と悪徳の禁止の委員会」です。

歴史

組織の起源は1927年のイフワーンの反乱に遡ります。1912年頃、サウード家がアラビア半島を支配しサウジアラビアの基礎を築いた際、宗教的な取締りはイフワーンが担っていました。しかし、1926年にイフワーンがメッカ巡礼団を襲撃した事件を機に、国王の勅令により勧善懲悪委員会の前身であるムタワが設置されました。イフワーン鎮圧後、委員会が宗教警察としての役割を担うようになりました。

当初は地域住民への生活指導を行うボランティア組織でしたが、1976年の勅令により権限が拡大し、法執行機関として活動するようになります。1979年のメッカ大モスク占拠事件以降は、反欧米感情の高まりとともに活動が過激化し、「イスラム的でない」という理由での逮捕や取り締まりが横行しました。

近年の変化

近年、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子の開放政策により、委員会の影響力は低下しました。2016年4月には逮捕権が剥奪され、社会運営の主導権は総合娯楽庁に移りました。かつて委員会が取り締まっていたバレンタインデーの祝賀も解禁されるなど、サウジアラビアは大きな変化を遂げています。

メッカの元委員会責任者だったアフマド・カースィム・アル＝ガーミディーは、男女同席の容認や音楽鑑賞の容認など、委員会の方針と対立する意見を発表し、開放政策を支える存在となっています。

組織と活動

勧善懲悪委員会はイスラーム宗教庁の内部委員会であり、一般宗教犯罪、詐欺、情報犯罪、魔術・まじないなどの部門があります。かつては電話相談窓口も設けていましたが、公式ウェブサイトは閉鎖され、活動の詳細は不明となっています。

魔術・まじない撲滅班

委員会には、黒魔術や呪詛といった迷信行為を取り締まる「魔術・まじない撲滅班」が存在します。この組織は、アラブ諸国で社会問題化している黒魔術・呪詛、除霊といった行為を、イスラームの教えに反する民間信仰、詐欺・詐称行為とみなし、摘発を行っています。

オフィスでの相談対応や、被害者からの相談を受け、呪詛具の判定や無効化作業も行います。黒魔術被害に遭ったと疑われる場合、クルアーンの章句を唱えるなどの解除作業も行います。

サウジアラビアでは、黒魔術に関する規定が法律に盛り込まれており、最高刑として死刑が設定されています。しかし、国際的人権団体からは、魔術師と判定された人物への死刑執行に対し、非難の声が上がっています。

過去の活動

かつて委員会は、3,500人の職員と多数のボランティアによって運営され、サウジアラビア国内で大きな影響力を持っていました。インターネットサイトの監視、ペットの禁止、酒の販売禁止、バレンタインデーの禁止など、様々な取り締まりを行っていました。

2002年には、メッカの女学院火災の際、「女子生徒の服装が規則違反」という理由で避難を妨害し、多数の死傷者を出すという事件も発生しています。

批判と制限

過激な活動から、サウジアラビア国内外で批判が高まり、近年では活動が制限されています。外国人向けの地域では立ち入りが制限されるなど、委員会に対する風当たりは強まっています。

まとめ

勧善懲悪委員会は、サウジアラビアの社会において、長年にわたり大きな影響力を持ってきましたが、近年は開放政策によりその役割を終えつつあります。しかし、過去の過激な活動や人権侵害は、国際社会から批判されており、その歴史は複雑な側面を持っています。

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