化け物尽くし絵巻

化け物尽くし絵巻

『化け物尽くし絵巻』は、江戸時代後期（19世紀前後）に制作されたと考えられる妖怪絵巻です。作者は不明。

概要

この絵巻には12種類の妖怪が描かれており、そのうち「狐火」を除く11種類は、『百鬼夜行絵巻』や『百怪図巻』など、他の有名な妖怪絵巻には類例が見られない、非常に珍しい妖怪たちです。絵巻には詞書（解説文）がなく、妖怪たちの詳細は謎に包まれています。

絵巻のサイズは、幅約30センチ、長さ約3メートル。描かれている妖怪には、水に関連した妖怪（水妖）が多いのが特徴です。

絵巻の中で、「狐火」には名前の読み仮名がありませんが、他の11種類の妖怪には全て読み仮名が書かれています。これは、狐火が当時よく知られていた妖怪であったのに対し、他の11種類は読み方すら分からないほど一般的ではなかったことを示唆していると考えられます。

この絵巻は、他に類を見ない新しいタイプの作品と言えますが、「為憎」「為何歟」「有夜宇屋志」「真平」「飛代路理」といった妖怪の名前は、その姿勢や態度から連想される言葉遊びに由来すると考えられます。このような命名の傾向は、熊本県の松井文庫所蔵の『百鬼夜行絵巻』にも共通して見られます。

現在の所蔵者は、川崎市市民ミュージアム学芸員の湯本豪一氏です。

化け物尽くし絵巻にのみ見られる妖怪

以下に、『化け物尽くし絵巻』にのみ見られる妖怪を紹介します。名称の読み仮名は、絵巻に書かれた原文ママとします。これらの妖怪には説明書きや伝承が残されていないため、その詳細は謎に包まれています。

汐吹（しほふき）: 波間から上半身を出し、象のような口から水を吹き上げる姿で描かれています。腕はあるものの、指はヒレのようです。「馬肝入道」や「充面」と耳の形が共通しており、河童のような水妖と考えられます。
馬肝入道（ばつかんにうどう）: 大きな鼻（天狗に似る）と大きな耳を持つ入道系の妖怪です。瞳は赤く、白い髭をたくわえています。「馬肝」はウマの肝臓を意味し、死に至るほどの毒を持つという言い伝えや漢方薬の名前でもありますが、この妖怪との関連性は不明です。
有夜宇屋志（うやうやし）: 跪いているような姿勢で描かれており、ガマガエルや肉塊（寝肥やぬっぺっぽう）のような外見をしています。皮膚には白い斑点が多数あります。
真平（まつぴら）: 犬のような顔をしていますが、後ろ足が長いです。赤いよだれかけのような布を胴に巻き、爪は黒いです。
充面（じうめん）: 口を一文字に結び、睨みつけるような顔で描かれています。目の周囲が赤く、黒い髭を生やし、小さな青い帽子をかぶり、青い衣に赤帯をしています。手は袖で隠されています。耳が大きく、「汐吹」や「馬肝入道」と同じ形状をしているのが特徴です。西洋の妖精や悪魔の尖った耳のように、耳の形状で人とは異なる存在であることを強調していると考えられます。
飛代路理（びよろり）: 蛇行した蛇の姿で描かれています。名前から飛び跳ねる様子が連想されますが、言葉遊びの要素が強いと考えられます。
蟹鬼（かにおに）: 体型は蟹というより蜘蛛に似ており、顔面が前に突き出ています。大きな口には鋭い黒い牙が描かれています。
波蛇（なみじや）: 高波が竜のようにうねった姿で描かれています。目があり、2本の角のような表現が見られます。水妖です。
滅法貝（めつほうかい）: 貝に目と尾がついた姿で描かれています。
為憎（にくらし）: 長い髪を振り乱した女性の姿で描かれています。
* 為何歟（なんじやか）: 下半身のみが描かれた妖怪です。上半身はおろか足首も描かれておらず、他に類を見ない珍しい妖怪とされています。妖怪研究家の大島清昭氏は、絵解きができないため意味が全く分からず、妖怪愛好家の間で最も話題になっている妖怪だと語っています。

まとめ

『化け物尽くし絵巻』は、他の妖怪絵巻には見られないユニークな妖怪たちが描かれた、貴重な資料です。作者不明であることや、妖怪に関する情報が少ないことから、その解釈は研究者や愛好家の間で様々に議論されています。

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