化学酸素ヨウ素レーザー

化学酸素ヨウ素レーザー（COIL）とは

化学酸素ヨウ素レーザー（COIL: Chemical Oxygen Iodine Laser）は、赤外線領域の光を放射する化学レーザーの一種です。このレーザーの最大の特徴は、メガワット級の高出力を連続的に得られる点にあります。ビームは赤外線であるため、人間の目には見えませんが、その強力なエネルギーは様々な分野での応用を可能にします。COILの出力波長は、ヨウ素原子の遷移波長である1315nmです。

COILの動作原理

COILは、以下の化学反応を利用して光を生成します。

1. 反応物質の供給: 塩素ガス、ヨウ素分子、そして過酸化水素と水酸化カリウムの混合水溶液がレーザー装置に供給されます。
2. 励起酸素の生成: 過酸化水素溶液は塩素と反応し、熱、塩化カリウム、そして励起状態の酸素である一重項デルタ酸素を生成します。
3. エネルギー移動: 一重項デルタ酸素は、その励起状態が約45分と比較的長く維持されるため、エネルギーをガス流中のヨウ素分子に効率的に移動させることができます。このエネルギー移動は、一重項酸素とヨウ素分子のエネルギー準位がほぼ共鳴しているため、非常に迅速に行われます。
4. レーザー発振: エネルギーを受け取って励起されたヨウ素原子は、誘導放出を起こし、レーザー光共振器内で波長1.315µmの光を発振します。

COILの特徴

COILは、他の高出力レーザーと比較して以下のような特徴を持ちます。

低圧動作: COILは比較的低圧で動作しますが、反応時間を短縮するためにガス流を音速に近づける必要があります。
効率的な熱除去: 高速ガス流により、レーザー媒質からの熱を効率的に除去できます。この特徴は、高出力固体レーザーと比較して大きな利点となります。
反応生成物: 反応生成物は、カリウム塩、水、酸素であり、比較的環境負荷が少ないです。また、少量の塩素とヨウ素は、ハロゲンスクラバーで排気ガスから取り除かれます。

COILの応用

COILは、その高い出力とビームの集束性から、軍事分野だけでなく、工業分野でも様々な応用が期待されています。

軍事利用: COILは、アメリカ空軍によって軍事目的で開発されました。2010年には、ボーイング747に搭載されたレーザー試験で、ミサイルの撃墜に成功しています。
工業利用: COILのビームは集束可能で、光ファイバーによる伝送も可能です。また、1.315µmの波長は、石英ガラスにはあまり吸収されませんが、金属にはよく吸収されるため、レーザー切断や穿孔などの金属加工に適しています。

その他の関連レーザー

全気相化学ヨウ素レーザー (AGIL): 全ての試薬を気体として用いることで、航空宇宙用途に適したレーザーです。
ElectricOIL (EOIL): ガスと電気を組み合わせたハイブリッド型のヨウ素レーザーです。

まとめ

化学酸素ヨウ素レーザー（COIL）は、その高出力と効率的な動作特性から、軍事、工業の両分野において大きな可能性を秘めたレーザー技術です。今後、更なる技術開発により、その応用範囲はさらに広がることが期待されます。

参考資料

Popular Science: The Flying Laser Cannon
Patent for the 'High energy airborne chemical oxygen iodine laser (COIL)'
'Laser jumbo' testing moves ahead

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