北京空港事件

概要

北京空港事件（ペキンくうこうじけん）は、1967年8月3日から8月4日にかけて、中華人民共和国の北京首都空港で発生した集団暴行事件です。日本共産党の『赤旗』北京特派員であった紺野純一氏と、日本共産党中央委員で元衆議院議員の砂間一良氏が、中国からの帰国を試みた際に、紅衛兵や、自らを「日本人紅衛兵」と名乗る日本人留学生らによって監禁され、集団的な暴行を受けました。

背景

この事件の背景には、文化大革命が本格化する直前の1966年3月に、日本共産党の宮本顕治委員長と中国共産党の毛沢東主席の間で行われた会談が決裂し、日中共産党の関係が急速に悪化したことがあります。中国共産党は、文化大革命の勃発後、各国の共産党に対して毛沢東思想の宣伝を強め、日本共産党に対しても「干渉と攻撃が加えられた」と日本共産党側は主張しています。こうした関係悪化が進む中、1967年2月末から3月初めにかけては、在日中国人の団体や中国人留学生、日本の親中国派団体が日本共産党系の学生組織と衝突する善隣学生会館事件も発生しています。

事件に至る経緯

日中共産党関係の悪化は、北京に滞在する日本人共産党員にも影響を及ぼしました。

1966年9月19日、中華人民共和国の招待を受けて北京の北京飯店で活動していた紺野氏は、日本人留学生から嫌がらせや暴力を受けるようになりました。中国側は留学生の行動を取り締まる姿勢を見せなかったため、紺野氏は安全確保のために和平賓館への移動を余儀なくされました。

1967年7月20日過ぎには、砂間氏が他の日本人から「日共修正主義集団を打倒しよう－日中両国の紅衛兵をあなどることはできない」と書かれたビラを受け取るなど、あからさまな敵意表明が見られるようになりました。

同年10月3日、中華人民共和国が人民大会堂で開催したレセプションでは、北京に在住する日本人の中から紺野氏と砂間氏だけが招待されませんでした。このレセプションでの乾杯の音頭は、「日中友好を破壊しようとするものをけとばすために乾杯」というもので、これは明らかに日本共産党を指していました。この場に参加した日本共産党員の中には、既に日本人留学生らから暴力を振るわれていた者もいたと言います。

度重なる嫌がらせや暴力行為を目の当たりにし、自身の身の危険を感じた紺野氏と砂間氏は、日本共産党中央に帰国を要請しました。これを受けて、党中央は両名に対し、即時帰国するよう命令を出しました。

当初、両名は北朝鮮の平壌を経由して帰国することを計画し、7月27日に手続きを行いましたが、中華人民共和国当局からの出国許可がなかなか下りませんでした。最終的に許可が下りたのは、事件発生直前の8月4日のことでした。

空港での暴行

1967年8月3日から4日にかけて、北京首都空港に到着した紺野氏と砂間氏は、待ち構えていた紅衛兵と日本人紅衛兵らの集団に取り囲まれました。集団は「ぶち殺せ！」と叫んで気勢を上げ、両名に対し「ジェット機式」と呼ばれる体罰や、つばを吐きかけるなどの激しい暴行を加えました。この暴力行為は、両名が平壌行きの航空機に搭乗するまで断続的に続きました。

事件後

この集団暴行により、紺野氏と砂間氏は瀕死の重傷を負いました。両名は北朝鮮に到着後、約50日間にわたる治療を受けてから日本に帰国しました。中朝国境を越えた際、両名は心底「助かった」と感じたと言われています。

一方、中華人民共和国側は、両名の帰国命令そのものを「計画的に引き起こされた新たな反中国事件」であると位置づけ、さらに「彼らには中国の客として適切な待遇を与えていた」と一方的に主張しました。また、暴行に加わった人々は、事件後に「暴力などなかった」と否定したり、「紺野と砂間はよつんばいになって逃げ出した」と嘲るような態度を示したりしました。

関連事項

日中共産党の関係
善隣学生会館事件
西沢隆二（事件当時、実子が暴行に加わったとされる）
西園寺公一（事件当時、現場に居合わせた）
日本共産党（左派）・劇団はぐるま座（一部メンバーが「日本人紅衛兵」に含まれていたとされる）
9月30日事件

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