西沢隆二

西沢隆二（ぬやま・ひろし）の生涯

西沢隆二（にしざわ たかじ、1903年11月18日 - 1976年9月18日）は、詩人「ぬやま・ひろし」として知られる日本の社会運動家であり、元日本共産党員です。兵庫県出身の実業家の子として生まれ、第二高等学校を中退後、社会運動の世界へ足を踏み入れました。

プロレタリア文学運動と共産党入党

1930年、西沢は日本プロレタリア作家同盟（ナルプ）の書記長に就任し、プロレタリア文学運動の中心人物として活動しました。1931年には日本共産党に入党し、党員としての活動を本格化させます。しかし、1934年に治安維持法違反で逮捕され、6年の懲役刑を受けました。満期後も予防拘禁の対象となり、獄中生活は11年に及びましたが、その間、転向することはありませんでした。

戦後の活動と「歌う共産党」

1945年の終戦後、西沢は府中刑務所から釈放され、共産党の復興に尽力しました。党青対部長として青年運動や文化運動に熱心に取り組み、徳田球一の女婿という立場も手伝って、党内における文化問題の権威とみなされるようになりました。独自の運動として、歌や踊りを活動に取り入れる「歌う共産党」運動を展開し、注目を集めました。また、衆議院議員選挙や参議院議員選挙にも立候補しています。

党内での対立と除名

その後、西沢は党中央委員を務め、徳田球一が北京機関を組織するとその一員となりました。しかし、宮本顕治ら国際派との妥協を主張したことが徳田との対立を招き、義絶を言い渡されます。西沢は野坂参三と接近し、徳田の病状が悪化すると、野坂と共に伊藤律を除名・幽閉しました。徳田亡き後の後継者問題について、西沢は宮本顕治の組織運営能力や志田重男の文化問題に関する知識不足を指摘し、両者の協力体制を模索しましたが、党内対立は激化していきました。

1966年、日中共産党の路線対立が表面化すると、西沢は党の方針に従わず、安斎庫治らと共に除名され、日本共産党（左派）に参加。毛沢東思想研究会を設立し、機関誌の編集人として活動しました。

詩人としての活動

西沢は詩人としても活動し、戦前から「驢馬」同人として堀辰雄、中野重治、佐多稲子らと交流していました。ナップに参加し、初期プロレタリア詩の運動に大きな足跡を残しました。獄中で綴った詩をまとめた詩集『編笠』は、戦後、彼の名を広く知らしめるきっかけとなりました。また、「若者よ」「われらの仲間」など、「歌う共産党」時代に作られた歌の作詞も手がけました。

晩年と正岡子規研究

晩年の西沢は、正岡子規の研究に情熱を注ぎました。二高時代からの親友であった正岡子規の妹の養子・正岡忠三郎との縁から、『子規全集』の編集委員にも名を連ねました。司馬遼太郎とも親交があり、司馬の小説『ひとびとの跫音』では、正岡と西沢が主人公として描かれています。

人物像

西沢は、理論家というよりは、詩人的な感性に基づいて行動する人物でした。そのため、後年には毛沢東盲従路線に走り、党の指導から離反し、かつての同志からも批判されるようになりました。また、夫婦で腕を組んで歩き、年齢に関係なく名前で呼び合うなど、進歩的な一面も持ち合わせていました。

主な作品

『詩集編笠』
『赤サビ物語』
『愛情の問題』
『ひろしぬやま詩集』
『働く若者よ誇り高く』
『発表されなかった詩二編』
『愛国の書』
『ぬやま・ひろし選集』

映画

『チョンリマ（千里馬）―社会主義朝鮮の記録―』

関連項目

春日庄次郎
内藤知周
志賀義雄
鈴木市蔵
安斎庫治
ひとびとの跫音
小林多喜二
宮本顕治
蔵原惟人
グラフわかもの

参考文献

長島又男『ぬやま・ひろしとその時代』 社会評論社、1985年。

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