北原鉱治

北原鉱治：成田空港建設反対闘争の象徴

北原鉱治（1922年～2017年）は、日本の市民運動史にその名を刻む、強烈な個性と信念を持つ活動家でした。千葉県佐倉市に生まれ、呉服商の次男として育ちました。保善中学校を中退後、日本光学（現ニコン）に勤務、その後、海軍へ志願入隊。駆逐艦「松風」や海防艦に勤務するなど、激動の時代を経験しました。終戦後、姉を頼り成田市の三里塚へ移り住み、開拓農家を目指しましたが、挫折。その後、呉服店を開業し、地域社会に深く根ざした生活を送ることとなります。

1966年、成田国際空港建設問題が勃発すると、北原は地元住民の一人として反対闘争に身を投じます。三里塚芝山連合空港反対同盟結成において、その穏健な立場と地域社会での人脈から事務局長に就任。同盟代表、戸村一作の片腕として、闘争の事務方を担いました。

北原の活動は多岐に渡ります。空港建設に反対する横断幕を掲げ、地下壕に立てこもるなど、政府の強権的な姿勢に徹底して抵抗しました。1974年には、反対同盟が協力した映画「襤褸の旗」に執行官役として出演するなど、その活動は闘争の枠を超えていました。また、成田市議会議員として4期16年間務め、議会において唯一の反対派として孤軍奮闘しました。

1978年の成田空港管制塔占拠事件では、囮役として逮捕されるなど、その行動は常に危険と隣り合わせでした。戸村の死去後は、反対同盟の代表を継承。その後、同盟は「北原派」と「熱田派」に分裂しますが、北原は北原派を率いて闘争を継続しました。高齢になっても、全国集会や裁判への参加を続け、政府との一切の対話を拒否し、空港廃港を訴え続けました。2011年には不退去罪で逮捕されるなど、生涯を通して4回の逮捕歴があります。

北原は、商売人としての経験と、地域社会における深い繋がりを活かし、反対同盟を率いてきました。反対同盟員への配慮や、徹底した闘争姿勢は、多くの関係者から証言されています。一方で、警察との密会疑惑が報じられるなど、複雑な一面も持ち合わせていました。

北原の活動は、単なる空港建設反対運動にとどまりません。土地収用法をはじめとする国家権力の行使、そして社会運動のあり方について、深く問いかけるものだったと言えるでしょう。彼は、自身の著書『大地の乱 成田闘争―三里塚反対同盟事務局長の30年』の中で、その生涯と闘争の軌跡を克明に記しています。

晩年は体調を崩し、自宅で療養生活を送るようになりましたが、2017年8月9日、老衰のため95歳で他界しました。彼の死は、成田空港問題だけでなく、日本の市民運動界に大きな衝撃を与えました。しかし、彼の遺志は、息子である健一氏を始めとする反対同盟員によって、現在も受け継がれ続けています。北原鉱治の生涯は、日本の戦後史、そして市民運動史において、決して忘れられることのない、重要な一章を刻んでいます。

もう一度検索