レーゼシナリオ

レーゼシナリオとは

レーゼシナリオは、映画脚本（シナリオ）の形式で書かれた文学作品で、レーゼドラマの一種です。映像化を前提とせず、読まれることを目的として書かれます。

「レーゼシナリオ」という単語について

「レーゼシナリオ」という言葉は、ドイツ語と英語を組み合わせた和製洋語です。一般の国語辞典には掲載されていませんが、一部のカタカナ語辞典には収録されています。パソコンの変換機能にも登録されていることがあり、一定の認知度があることが伺えます。

特徴

レーゼシナリオは、場面転換の多さや、ズームアップ、フェードインなどの撮影・編集用語の使用が特徴です。これは、映像作品を意識した表現によるもので、読者に映像的なイメージを喚起させる効果があります。

萩原朔太郎は、芥川龍之介のレーゼシナリオ「浅草公園」を評して、「映画に附属する下書き様のものでなく、それ自身で完成された文学であり、且つ文学自身の中に、一巻の映画をイメージさせる」と述べています。

具体例

レーゼシナリオの例として、芥川龍之介の『浅草公園』『誘惑』、ルイ＝フェルディナン・セリーヌの『島の秘密』などが挙げられます。近年では、大西巨人の小説をシナリオ化した『シナリオ 神聖喜劇』や、長部日出雄の『天皇の誕生 映画的「古事記」』などがあります。

ウィリアム・バロウズの『ダッチ・シュルツ 最期のことば』は、レーゼシナリオとして出版された後、実際に映画化されました。

レーゼドラマとの違い

レーゼシナリオは、必ずしもレーゼドラマの部分集合とは言えません。内容面から見ると、戯曲とは言えない作品も含まれます。また、小説として分類されることもあります。

小説と見なされるレーゼシナリオ

『ニグロフォビア』や『ダッチ・シュルツ 最期のことば』は、「映画シナリオ形式の小説」と副題が付けられています。また、ロバート・アントン・ウィルソンの作品は、「小説兼映画脚本」と称されました。このように、レーゼシナリオは、小説の一ジャンルとして扱われることも少なくありません。

デュラスの“シネ・ロマン”

マルグリット・デュラスは、『インディア・ソング』や『破壊しに、と彼女は言う』など、戯曲、シナリオ、小説を融合させたような作品を制作しました。これらの作品は、“シネ・ロマン”と呼ぶにふさわしい、独自の表現を持っています。

クローゼット・スクリーンプレイ

映画製作が頓挫した場合でも、脚本が出版されることがあります。このようなシナリオは「クローゼット・スクリーンプレイ」と呼ばれます。ジェームズ・ボールドウィンがマルコムX自伝を脚色したシナリオなどが、この例に該当します。

インターネット発のレーゼシナリオ

近年では、ウェブ上に発表されるレーゼシナリオも登場しています。岡本呻也による『正義の人 シナリオ版仙波敏郎物語』や、アジズ・アンサリがTwitter上に書き込んだ『ゴースト・プレイン』などがその例です。

レーゼシナリオの歴史

レーゼシナリオの歴史は、芥川龍之介の『浅草公園』『誘惑』（1927年）などに遡ります。その後、セリーヌ、レオーノフ、デュラスなど、多くの作家がレーゼシナリオの制作に携わりました。

関連項目

対話体小説
通俗小説
シュールレアリスム
ドラッグ・カルチャー
リプレイ (TRPG)

参考文献

日本映画論言説大系第二期第十八巻『純粋映画記』　北川冬彦・著
『Closet Screenplay』　ユスティヌス・ティム・アヴェリー編
『年末の一日、浅草公園 他十七篇』　芥川龍之介・作

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