北条町 (千葉県)

北条町

北条町（ほうじょうまち）は、かつて千葉県安房郡に存在した町です。現在の館山市のほぼ中央部に位置するこの地域は、明治時代に郡役所が設置され、大正時代には鉄道駅（現在の館山駅）が開業するなど、房総半島南部の安房地域における政治や経済活動の中心地として発展しました。昭和8年（1933年）には隣接する館山町と合併し、新たに館山北条町の一部としてその歴史を閉じました。

地理

現在の館山市は、市域を区分する形で複数の地区を設けており、かつての北条町域は「北条地区」として位置づけられています。この地域は、北側を流れる平久里川と南側の汐入川に挟まれた平野部で、館山湾に沿って広がっています。内房線の館山駅や館山市役所など、現在の館山市の主要な施設が多く所在する中心的な地域です。

大正15年（1926年）当時の地理的な状況を見ると、北は平久里川を境に那古町と接し、東には国府村や館野村、そして南側には館山町がありました。当時の北条町は、北条（ほうじょう）、新宿（しんじゅく）、長須賀（ながすか）、八幡（やわた）、湊（みなと）、高井（たかい）、上野原（うえのはら）、正木（まさき）という八つの区に分けられていました。かつてこの町は「安房郡第一の都邑（としょく）」、すなわち郡内で最も栄えた町の一つと称されていましたが、大正10年末時点の居住人口は7,846人で、館山町の8,244人よりは少なかったと記録されています。古くからの集落は、館山湾沿いの第三砂丘列上に形成されており、内房方面と外房方面からの房総往還が合流する交通上の要衝でした。

歴史

前近代

「北条」という地名は、古代に実施された土地制度である条里制に由来すると考えられており、同じく条里制にちなむ地名として、豊房地区に「南条」という地名が対になって存在します。鎌倉時代には、鶴谷八幡宮が現在の南房総市にあった府中から、現在の八幡地区へ移されたと伝えられています。

戦国時代の頃には、現在の北条地域に加え、湊、八幡、上野原、新宿といった周辺の地域も含めて「北条」と呼ばれていました。しかし、江戸時代の初期には、北条村から湊村と八幡村が分村しています。

江戸時代の初め、慶長年間（1596年～1615年）には、既に長須賀や北条の地に町場が形成されていたことがわかっています。寛永15年（1638年）、安房国で一万石の大名となった屋代忠正は、北条の仲町付近（現在の館山消防署、北条病院、館山警察署あたり）に陣屋（北条陣屋）を設けました。北条藩は、屋代氏が約70年間（後に改易）、その後中断を経て水野氏が約100年間にわたり治めました。水野氏は文政10年（1827年）に上総国鶴牧藩へ移りましたが、文久元年（1861年）には安房国内に飛び地領を持った近江三上藩が、その支配拠点として北条陣屋を明治元年（1868年）まで利用しました。また、幕末の弘化4年（1847年）には、安房国の東京湾沿岸の海防を担っていた忍藩によって、鶴ヶ谷（現在の安房高校西南付近）に海防のための陣屋（鶴ヶ谷陣屋）が築かれています。江戸時代を通じて、この地域には北条、長須賀、八幡、湊、高井、古川新田の六つの村が存在しました。

近代

明治時代の初期には、北条村から新宿と上野原が分かれて新たな村となりました。明治元年（1868年）、北条を含む一帯は、駿河国田中藩から移封された長尾藩本多家四万石の領地となります。長尾藩は明治3年（1870年）に鶴ヶ谷陣屋を修築して藩の役所とし、藩士の居住地も整備しました。明治4年（1871年）の廃藩置県により長尾藩は廃止され、長尾県から木更津県を経て千葉県の一部となりますが、旧長尾藩庁（鶴ヶ谷陣屋）は明治7年（1874年）まで県の出張所として使われました。

明治7年（1874年）には大区小区制が施行され、安房郡と平郡からなる第一大区の扱い所が北条に置かれました。この役所の建物には、かつての北条陣屋が転用されています。明治11年（1878年）に郡区町村編制法が施行されると、安房・平・朝夷・長狭の四郡を管轄する郡役所が北条町に設置されました。これにより、北条には郡役所を中心に、警察署や郡会議事堂、町役場などが立ち並ぶ官庁街が形成されました。これらの四郡は、明治30年（1897年）に統合され、現在の安房郡となりました。郡区町村編制法の施行に際し、北条村は新宿町と、八幡村は高井村、湊村、上野原村と、長須賀村は上真倉村、下真倉村とそれぞれ合同で戸長役場を置きました。明治17年（1884年）の戸長役場管轄区域再編では、長須賀村は館山町などと連合し、その他の七つの村と町が一つの連合を形成しました。

明治22年（1889年）、近代的な自治体制度である町村制が施行されるにあたり、北条村、新宿町、上野原村、長須賀村、八幡村、湊村、高井村が合併し、新たな自治体として「北条町」が発足しました。新しい町の名称には、最も著名であった北条村の名が採用されています。この合併の際、高井村と平郡の正木村、府中村との間で境界が錯綜していた土地について、平久里川を基準として領域が調整されました。現在の北条正木地区は、この時に正木村から北条町に編入された土地にあたります。

大正8年（1919年）5月24日、国鉄木更津線（現在の内房線）が那古船形駅から南へ延伸され、その終着駅として北条町に安房北条駅が開業しました。これを機に木更津線は「北条線」と改称されました（安房北条駅は昭和21年（1946年）に館山駅と改称）。北条線はその後も段階的に延伸が進み、大正14年（1925年）には安房鴨川駅まで開通し、昭和4年（1929年）には房総半島を一周する鉄道路線が完成しました。安房北条駅の開業は町に大きな変化をもたらし、駅前を中心に商業が発展し、町の中心機能も駅前に移っていきました。

経済・交通・教育

明治21年（1888年）の資料によれば、当時の北条、新宿、長須賀の住民は商業と農業を主な生業としていましたが、その他の村では農業が中心でした。大正15年（1926年）に編纂された『安房郡誌』では、町民の大部分が商業に従事していると記されており、また、北条町は避暑地としても広く知られるようになっていました。

交通面では、前述の通り国鉄房総西線（現内房線）の安房北条駅が町の玄関口となりました。また、房総街道（現在の国道127号）が町を縦断していました。

教育機関としては、千葉県立安房中学校（現在の千葉県立安房高等学校）や千葉県立安房高等女学校などが置かれ、地域教育の中心的な役割を担いました。

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