北軍気球司令部

北軍 気球司令部の設立と活動

南北戦争中、北軍は偵察目的で気球を利用する部隊、北軍気球司令部を設立しました。この部隊は、気球操縦士タデウス・ローによって組織され、民間運営ながらも、南軍の動向を偵察するという重要な役割を担いました。

タデウス・ローの登場

タデウス・ローは、気球操縦の豊富な経験を持つ人物でした。大西洋横断飛行を計画していたものの、南北戦争の勃発によって計画は頓挫。その後、ローは気球を軍事利用することを提案し、エイブラハム・リンカーン大統領に自身の気球「エンタープライズ号」を使い、ホワイトハウス前でデモンストレーションを行いました。

ローは高度150メートルからワシントンD.C.周辺の様子を電報で送信し、その有用性を示しました。その結果、彼は新設された北軍気球司令部の指揮官に選ばれたのです。

気球司令部の活動

気球司令部は、ヨークタウンの包囲戦、セブンパインズの戦い、アンティータムの戦い、フレデリックスバーグの戦いなど、主要な戦闘で偵察活動を行いました。しかし、1863年夏、ローの辞任とともに解隊されました。

気球操縦士長選定の経緯

気球を軍事利用する動きは、フランス革命戦争中に遡りますが、リンカーン大統領は偵察目的での気球の利用に興味を持ち、気球部隊の設立を決定しました。しかし、部隊の運営形態や指揮官の選定方法は明確でなく、複数の気球操縦士がその地位を求めて活動しました。

その中で、ローは最も有力な候補者であり、ジョン・ラマウンテンというもう一人の気球操縦士との競争に勝利しました。ローがリンカーン大統領に実演を行い、軍の将校からの推薦を得たことで、気球操縦士長の地位を確立しました。

タデウス・ローの功績

ローは、気球の製作技術に優れており、大西洋横断飛行も視野に入れていました。彼の科学的な記録は、スミソニアン博物館のジョセフ・ヘンリー教授などから高く評価されていました。

ローはリンカーン大統領との会見後、直ちに気球によるデモンストレーションを行い、その有用性をアピールしました。また、ローは、電報を利用した情報伝達も行い、戦場での気球の活用方法を確立しました。

ジョン・ワイズとの対立

ジョン・ワイズは、気球操縦の先駆者でしたが、ローとの競争では不利な立場にありました。ワイズは自らの気球「アトランティック号」で戦場に赴きましたが、故障により活動できなくなりました。また、ワイズはローの活動を妨害しようとしたようですが、失敗に終わっています。

ジョン・ラマウンテンとの対立

ジョン・ラマウンテンも気球操縦士であり、ローのライバルでした。ラマウンテンはローの偵察方式を批判し、自由飛行を主張しました。しかし、ラマウンテンはローの指揮下に入り、後に軍務から解かれています。

自由飛行と繋留飛行

気球の操縦には、自由飛行と繋留飛行の2つの方法がありました。ローは、安全性と情報伝達の観点から、繋留飛行を支持しました。一方、ラマウンテンは、自由飛行を主張しましたが、結果的にローの主張が受け入れられました。

軍用気球の製作

ローは、軍用気球が民間用よりも優れたものであるべきだと考え、携帯可能な水素ガス発生器を開発しました。また、気球の素材やワニスにも工夫を凝らし、より実戦的な気球の製造に取り組みました。

気球の運用

ローは、7基の気球を製作し、そのうち6基を実戦に投入しました。気球は、偵察や砲撃の誘導などに使用され、戦況を大きく左右しました。また、ローは、気球の運用に必要な人材も育成しました。

最初の気球母艦

ローは、石炭用艀を改造して気球母艦を製作しました。この母艦は、気球や水素ガス発生器を搭載し、河川での機動的な運用を可能にしました。

半島方面作戦での活躍

半島方面作戦では、ローの気球偵察が重要な役割を果たしました。特に、セブンパインズの戦いでは、南軍の動きを察知し、北軍を勝利に導く上で大きな貢献をしました。

南軍の気球

北軍の気球の活躍を受け、南軍も気球を導入しようとしました。しかし、資材不足のため、南軍の気球は十分な性能を発揮できませんでした。また、南軍の気球は、北軍に捕獲されるなど、実戦での活躍は限られていました。

気球司令部の解散

気球司令部は、その有用性が認められながらも、軍内部での理解は得られず、ローの辞任とともに解散しました。気球司令部が解散した理由としては、軍内部の派閥争いや予算の問題など、様々な要因が考えられます。

南北戦争後

南北戦争後、飛行船が登場すると、気球は再び軍事利用されるようになります。また、ローの気球に関する報告書は、海外にも伝わり、後の飛行船開発に影響を与えました。

まとめ

北軍気球司令部は、アメリカ史上初の軍用気球部隊であり、南北戦争において重要な役割を果たしました。設立者のタデウス・ローは、気球操縦技術と軍事利用に関する深い知識を持っており、その指導力により部隊は成功を収めました。

しかし、軍内部の不理解や予算の問題により、部隊は短期間で解散しました。それでも、気球司令部の活動は、その後の軍用気球や飛行船の開発に大きな影響を与えました。

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