北野恒富

北野恒富：浪花の巨匠、その生涯と芸術

北野恒富（きたのつねとみ、1880年5月5日または28日 - 1947年5月20日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した、日本を代表する画家の一人です。浮世絵師、版画家としての顔も持ち、多様な表現技法を駆使した作品群は、現在も高い評価を得ています。本名は富太郎、号は夜雨庵。

少年時代から挿絵画家へ

石川県金沢市に生まれた北野は、幼少期から絵画への才能を示し、家にある掛け軸などを模写して腕を磨きました。小学校卒業後、木版書画の版下製作業者である西田助太郎に師事。木版画の技術を習得する一方、南画も学びました。その後、複数の木版画彫刻師の門下を転々とした後、彫刻師の中山駒太郎と共に北国新報に入社。しかし中山から「画家は都会にあらねば面白からず」と励まされたことで、大阪へ拠点を移すことを決意します。

大阪では彫刻師の伊勢庄太郎、そして月岡芳年の門下生である稲野年恒に師事。彫刻師としての仕事にも従事していましたが、やがて挿絵画家への道を志し、明治32年（1899年）には月刊新聞「新日本」の小説挿絵を担当。これが彼の挿絵画家としてのデビューとなりました。当時人気を博していた梶田半古の作品に影響を受けながら、独自の画風を模索していきます。また、大阪画壇の組織化に尽力した信近春城を通じて、野田九浦とも親交を結びました。明治34年（1901年）には藤村歌と結婚、大阪新報社に入社し、小説挿絵を担当。翌年には長男・顕雄（後の日本画家、北野以悦）が誕生します。

人気画家としての飛躍

明治43年（1910年）、第4回文部省美術展覧会（文展）で「すだく虫」が入選。これがきっかけで注目を集め、以後、文展で「賃仕事」「日照雨」などが受賞するなど、日本画家として全国的にその名が知られるようになります。特に、大正時代には、丸みを帯びた造形と濃厚な情感、そして頽廃的な雰囲気を漂わせる独特の「恒富風美人画」で人気を博しました。この画風は、京都の画家たちから「画壇の悪魔派」と評されるほど、当時としては斬新なものでした。

文展から院展へ、そして大阪画壇のリーダーへ

文展での成功を礎に画家としての地位を確立した北野でしたが、大正2年（1913年）の文展で落選したことをきっかけに、翌年、日本美術院展（院展）へ出品。横山大観に誘われ、初出品作「願いの糸」を発表しました。その鮮やかな色彩は「大阪人のよく使うほんとうの赤の色」と評され、注目を集めました。大阪から院展に参加したのは彼一人でした。

その後、院展への出品を続け、大正6年（1917年）には同人となります。昭和初期にかけては、より清澄で簡潔な画風へと変化していきました。院展への出品と並行して、大阪美術院や帝国美術院展などにも作品を出展。また、聖徳記念絵画館の壁画制作なども手がけています。

創作活動に加え、大阪画壇の活性化にも大きく貢献しました。大正美術会、大阪美術協会、大阪茶話会などを設立し、画壇の再編に尽力。自ら主宰した画塾「白耀社」では、不二木阿古、中村貞以など多くの弟子を育成しました。また、浮世絵の技法を用いた新版画も制作し、浪速情緒あふれる作品を発表。特に女性画家の育成、後援に力を注ぎ、大阪画壇を牽引する存在となりました。晩年には大阪市立美術館絵画研究所の日本画講師も務めました。

晩年とその後

昭和22年（1947年）、心臓麻痺のため急逝。享年67歳。その死は大阪画壇に大きな衝撃を与えました。没後もその作品は高く評価され続け、平成元年（1989年）には彼の代表作「阿波踊」が切手のデザインに使用されるなど、現在も広く親しまれています。北野恒富は、その卓越した画才と大阪画壇への貢献で、日本美術史に大きな足跡を残した画家と言えるでしょう。

作品

北野恒富は、日本画、版画ともに多くの作品を残しています。代表的な作品には、以下のものがあります。

木版画

「廓の春秋 冬 鏡の前」
「鷺娘」
「舞妓」

日本画

「燕子花」
「六歌仙」
「羅浮仙」
「願いの糸」
「暖か」
「鏡の前」
「花」
「淀君」
「茶々殿」
「東都名所」より宗右衛門町
「美人」
「娘」
「戯れ」
「阿波踊」
「いとさんこいさん」
「関取」
「真葛庵之蓮月」
「夜桜」
「納涼美人図」
「舞妓図」
「涼み」

これらの作品は、各地の美術館などに所蔵されています。

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