十津川郷士

十津川郷士（とつかわごうし）

十津川郷士とは、南大和（現在の奈良県十津川村）に在住していた郷士集団のことです。彼らは、幕末の動乱期に勤皇の志士として活躍し、戊辰戦争にも参加しました。地理的・歴史的背景から独自の文化を育み、独立独歩の精神を持つことで知られています。

概要

十津川村は、大和国（現在の奈良県）南部に位置する山深い村です。幕末には、御所警備の際に日の丸に「菱十（菱の中に十字）」の旗を授けられ、それ以降は菱十紋を旗印としました。この紋は、現在の十津川村と、北海道の新十津川町のマークにも使用されています。

十津川郷士は、その特異な独立独歩の精神から、明治以降の合併にも参加しませんでした。この背景には、十津川が持つ独特の地理的・歴史的環境があり、文化や言語の面でも独自性が強いことが挙げられます。民俗学者の柳田國男も、近畿圏にありながら東京式アクセントであるという言語的な特色に注目しています。

歴史

古代～江戸時代後期

十津川の住民は古くから朝廷に仕え、壬申の乱や平治の乱にも出兵しました。これらの戦功により、税の減免措置をたびたび受けています。この減免措置は明治期の地租改正まで続き、全国でも最も長い期間にわたると言われています。

南北朝時代には南朝につき、室町時代には守護の支配下に入りませんでした。太閤検地時にも年貢が赦免され、大坂の陣では十津川郷士千人が徳川方として豊臣派の一揆を鎮圧しました。これらの功績により、江戸時代に入っても大和の五條代官所の下で天領となり免租され、住民は郷士と名乗ることを許されました。

険しい山々に守られた十津川は、古くから南朝の皇族や源義経など、貴人の流刑地や逃亡者の隠れ場所となっていました。

幕末

幕末になると、上平主税などを筆頭に勤皇の志士が現れました。千名を超える兵動員力を持っていたため、尊王攘夷派の公家から期待され、薩摩、長州、土佐などと並んで宮廷警護を命じられました。天誅組の変には多くの郷士が参加しましたが、装備の古さや戦略の無さから劣勢となり、朝廷から「天誅組は朝廷軍ではない」との判断が下されたため離脱しました。1867年には高野山挙兵で鷲尾隆聚隊に加わり、戊辰戦争では大総督官直属の朝廷御親兵として越後から会津まで出兵し、戦功を挙げました。

明治後

維新後、勲功により華族に列した者以外は士族に列しました。独特の尊王意識から明治天皇の東京行幸に反対する者も多く、上平主税などの一部の急進派は、新政府の近代化政策に反発して参与横井小楠暗殺事件などを起こしました。

逸話

十津川郷士は、山中の寒村という環境から近代化装備には遅れを取りましたが、古くから武道に長けていた者が多かったと言われています。例えば、十津川郷士の一人である中井庄五郎が、友人の土佐脱藩士と京の四条の川畔を酔って歩いていた際、新選組の永倉新八、沖田総司、斎藤一らと乱闘になったという逸話があります。中井は重傷を負った土佐脱藩士を担いで戦線離脱しており、十津川郷士の個々の戦力と胆力、普段からの武道研磨の度合いが窺えます。

横井小楠暗殺事件で島流しとなった上平主税は、伊豆新島への終身流刑（約10年後特赦）となった際、流刑船内で新選組最後の局長・相馬主計と知り合い、親交を深めたと伝えられています。

脚注

司馬遼太郎は、その著書「街道をゆく」で十津川郷を「十津川共和国」と呼んで取り上げています。

関連項目

吉村虎太郎
梅田雲浜
中山忠光
天満屋事件
十津川村
新十津川町
奈良県立十津川高等学校
前田隆礼
坂本龍馬

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