十返肇

十返肇

十返肇（とがえり はじめ、1914年3月25日 - 1963年8月28日）は、昭和期に活躍した日本の作家、文芸評論家、編集者です。香川県高松市に生まれ、本名は十返 一（とがえり はじめ）。筆名として大方宗多（オオカタ ソウダ）も用いました。

生涯

高松市の料亭・淀川楼の長男として生まれた十返肇は、旧制高松中学校を経て、1935年（昭和10年）に日本大学芸術科を卒業しました。学生時代から、中河与一が主宰する同人誌「翰林」に参加し、文芸時評を連載するなど、文筆活動を始めています。東京市麹町区土手三番町に下宿していた頃には、近所に住んでいた作家の吉行エイスケに師事しました。

大学卒業後は、森永製菓宣伝部に勤務した後、第一書房に入社し、文芸雑誌「新文化」（後に「セルパン」と改題）の編集長を務めました。戦後、作家の丹羽文雄に勧められ、「十返肇」という筆名を使い始めます。1947年からは文芸時評を再開し、1950年には「文学者」の同人となりました。

1963年8月28日、舌癌のため国立がんセンターで死去。49歳という若さでした。妻である十返千鶴子は随筆家で、作家の三木蒐一と挿絵画家の風間完は彼女の兄にあたります。

業績

十返肇は、文芸評論家として、同時代の文学作品や文壇の動向を鋭く批評しました。特に、戦後文学の状況を分析した『贋の季節 「戦後文学の環境」』や、文壇の内情を描いた『文壇風物誌』、『文壇の崩壊』などは、当時の文壇を知る上で貴重な資料となっています。また、『五十人の作家』や『現代文壇人群像』など、多くの作家論も著しており、それぞれの作家の個性や作品の魅力を深く掘り下げています。

編集者としても才能を発揮し、文芸雑誌の編集を通じて、多くの作家を世に送り出しました。その活動は、戦後の文学界の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。

著書

『時代の作家』 明石書房、1941年
『意志と情熱』 通文閣、1941年
『文学の生命』 肇書房、1943年
『作家の世界』 明石書房、1944年
『小説の女性』 朝日新聞社、1954年
『贋の季節 「戦後文学の環境」』 大日本雄弁会講談社、1954年
『文壇と文学』 東方社、1954年
『五十人の作家』 大日本雄弁会講談社、1955
『現代文学白書 「文壇パトロール」』 東方社、1955年
『文壇風物誌』 三笠書房、1955年
『現代の表情』 北辰堂、1956年
『現代文学の周囲』 河出書房、1956年
『現代文壇人群像』 六月社、1956年
『最初の季節』 大日本雄弁会講談社、1956年
『作家の肖像』「人・作品・生活」 、近代生活社、1956年。編著
『谷崎潤一郎名作集』 あかね書房、1956年。編著
『筆一本』 鱒書房、1956年
『わが文壇散歩』 現代社、1956年
『文壇の展望』 潮文社、1957年
『文壇の崩壊』 村山書店、1957年
新編『「文壇」の崩壊』 講談社文芸文庫、2016年。坪内祐三編
『男というものは』 六興出版部、1959年
『スター見本市』 角川書店、1961年
『十返肇の文壇白書』 白凰社、1961年
『けちん坊』 文藝春秋新社、1962年
『文壇放浪記』 角川書店、1962年
『実感的文学論』 河出書房新社、1963年
『十返肇著作集』（全2巻）、講談社、1969年
『昭和文学よもやま話』 上記の著作集所収、吉行淳之介編、潮出版社、1980年

外部リンク

十返 肇：作家別作品リスト - 青空文庫

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