十銭硬貨

日本の十銭硬貨について

十銭硬貨は、かつて日本で発行されていた硬貨の一つで、1円の10分の1の価値を持っていました。明治時代から昭和時代にかけて、様々な素材とデザインで発行され、日本の貨幣史において重要な役割を果たしました。ここでは、その歴史と特徴について詳しく解説します。

発行された十銭硬貨の種類

十銭硬貨は、以下の10種類が発行されました。ただし、八咫烏十銭銀貨は流通しなかったため、実際に市場に出回ったのは9種類です。

1. 旭日竜十銭銀貨
2. 竜十銭銀貨
3. 旭日十銭銀貨
4. 八咫烏十銭銀貨（流通せず）
5. 十銭白銅貨
6. 十銭ニッケル貨
7. 十銭アルミ青銅貨
8. 菊十銭アルミ貨
9. 十銭錫貨
10. 稲十銭アルミ貨

1953年の小額通貨整理法により、これらの十銭硬貨はすべて通用停止となり、現在は法定通貨としての効力はありません。

各十銭硬貨の詳細

1. 旭日竜十銭銀貨

品位: 銀80%、銅20%
量目: 2.5g
直径: 17.575mm（実測18.18mm）
図柄:
表面：竜図（阿竜）、年号、「大日本」、「十錢」
裏面：菊花紋章、桐紋、旭日、菊枝と桐枝
周囲: ギザあり
発行開始: 1871年（明治4年）

新貨条例施行に伴い発行された貨幣で、元首の象徴である竜図が採用されました。品位は貿易用一円銀貨よりも低く設定され、海外への流出を防ぐ措置が取られました。明治3年銘には「明瞭ウロコ」と呼ばれる希少なものがあります。

2. 竜十銭銀貨

品位: 銀80%、銅20%
量目: 2.696g
直径: 17.575mm（実測18.18mm）
図柄:
表面：竜図（阿竜）、年号、「大日本」、「10SEN」
裏面：菊花紋章、菊枝と桐枝、「十錢」（1897年以降は表裏の呼称が逆）
周囲: ギザあり
発行開始: 1873年（明治6年）

新貨条例の改正により発行され、量目が貿易用一円銀貨と比例関係になるように改正されました。表面には「10SEN」とアラビア数字とローマ字で額面が表記され、国際化に対応したデザインとなっています。明治6年から明治39年まで発行されましたが、一部の年号では製造された年と異なる年銘が刻印されています。特に明治13年銘は非常に希少です。

3. 旭日十銭銀貨

品位:
1906年改正分：銀80%、銅20%
1907年改正分：銀72%、銅28%
量目:
1906年改正分：2.696g
1907年改正分：2.25g
直径: 17.575mm
図柄:
表面：菊花紋章、菊枝と桐枝、「十錢」
裏面：旭日、桜、年号、「大日本」、「10SEN」
周囲: ギザあり
発行開始:
1906年改正分：1906年（流通せず）
1907年改正分：1907年（明治40年）

1906年改正分は、竜図が廃止され旭日のデザインに変更されましたが、流通することなく鋳潰されました。1907年改正分は、品位を下げて発行されましたが、第一次世界大戦の影響で銀価格が暴騰し、発行が停止されました。

4. 八咫烏十銭銀貨（流通せず）

品位: 銀72%、銅28%
量目: 1.5g
直径: 16.061mm
図柄:
表面：菊花紋章、桐紋、鳳凰、「十錢」
裏面：旭日、桜、八咫烏、八稜鏡、年号、「大日本」、「10SEN」
周囲: ギザあり
発行開始: 1918年（大正7年）

第一次世界大戦による銀価格の高騰を受け、量目を減量して発行されました。デザインは一般公募によるもので、文字に初めて隷書体が採用されました。しかし、銀価格の暴騰が止まらず、市中には流通しませんでした。

5. 十銭白銅貨

品位: 銅75%、ニッケル25%
量目: 3.75g
直径: 22.121mm
孔径: 4.50mm
図柄:
表面：菊花紋章、桐、「十錢」
裏面：八稜鏡、青海波、「大日本」、年号
周囲: 平滑
発行開始: 1920年（大正9年）

銀価格の高騰により、銀貨のままでは小さくなりすぎるため、白銅貨が導入されました。有孔貨幣で、大型五銭白銅貨とデザインが似ています。大正小額政府紙幣を回収する目的もあり大量に発行されました。

6. 十銭ニッケル貨

品位: 純ニッケル
量目: 4g
直径: 22mm
孔径: 6mm
図柄:
表面：菊花紋章、桐紋、「十錢」
裏面：青海波、桜、「大日本」、年号
周囲: 平滑
発行開始: 1933年（昭和8年）

軍事物資として必要なニッケルの備蓄の意味を含めて発行されました。図案は一般公募作品ですが、五銭ニッケル貨とは別のデザインとなっています。文字には隷書体が採用されています。

7. 十銭アルミ青銅貨

品位: 銅95%、アルミニウム5%
量目: 4g
直径: 22mm
孔径: 4.6mm
図柄:
表面：菊花紋章、旭光、吉祥波、「十錢」
裏面：桐紋、桜、「大日本」、年号
周囲: 平滑
発行開始: 1938年（昭和13年）

日中戦争により、軍需材料確保のため発行されました。前代のニッケル貨を鋳潰してニッケルを確保し、新たにアルミ青銅を採用しました。図案は一般公募作品で、文字には隷書体が用いられています。

8. 菊十銭アルミ貨

品位: 純アルミニウム
量目: 1.5g→1.2g→1g（時代によって変動）
直径: 22mm
図柄:
表面：菊花紋章、桐、「十錢」
裏面：桜、「大日本」、年号
周囲: ギザあり
発行開始: 1940年（昭和15年）

第二次世界大戦中、銅を確保するためアルミニウムに変更されました。戦況の悪化に伴い、2度にわたり量目が削減されています。裏面の桜花は凹図になっており、日本の近現代硬貨においては唯一の採用例です。

9. 十銭錫貨

品位: 錫93%、亜鉛7%
量目: 2.4g
直径: 19mm
孔径: 5mm
図柄:
表面：菊花紋章、桐紋、瑞雲、「十錢」
裏面：「大日本」、年号
周囲: 平滑
発行開始: 1944年（昭和19年）

戦時中の物資不足により、東南アジアで産出された錫を用いて製造されました。非常に柔らかいため、貨幣としては不向きでしたが、当時の状況下でやむなく発行されました。

10. 稲十銭アルミ貨

品位: 純アルミニウム
量目: 1g
直径: 22mm
図柄:
表面：菊花紋章、稲穂、「十錢」
裏面：桜、「10」、「日本政府」、年号
周囲: 平滑
発行開始: 1945年（昭和20年）

敗戦後、GHQの承認を得て発行された最後の十銭硬貨です。国名表記が「大日本」から「日本政府」に変更されました。造幣局のわずかな手持ち資材で製造されました。

未発行貨幣・試鋳貨幣

上記以外にも、様々な試作品や未発行の十銭硬貨が存在します。これらは、素材やデザインが異なり、非常に希少価値が高いものもあります。

まとめ

十銭硬貨は、日本の歴史と経済状況を映し出す鏡のような存在です。素材やデザインの変遷を通じて、当時の社会情勢や技術革新を垣間見ることができます。これらの硬貨は、単なる通貨としてだけでなく、日本の歴史を語る上で貴重な資料となっています。

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