千葉一幹

千葉一幹（ちばかずみき）氏は、日仏比較文学、日本近現代文学を専門とする研究者であり、鋭い視点を持つ文芸評論家でもあります。1961年 5月19日に三重県で生まれ、現在、大東文化大学文学部にて教授を務め、研究と教育にあたっています。

氏の学問的キャリアは、三重県立桑名高等学校を卒業後、東京大学文学部仏文科に進んだことから始まりました。同大学を卒業後、大学院比較文学比較文化修士課程に進み、これを修了しています。さらに博士課程総合文化研究科比較文学比較文化に進み、単位を取得して満期退学しています。この間の多岐にわたる研鑽が、後の日仏比較という視点を含む、幅広い研究活動の礎となりました。

大学教員としてのキャリアは、1992年に東北芸術工科大学の講師としてスタートしました。その後、同大学で助教授を務め、教育者としての経験を積んでいきます。2005年には拓殖大学商学部の教授に就任し、さらに2014年からは、現在の所属である大東文化大学文学部の教授として、多くの学生に文学や批評の面白さを伝えています。

文芸評論家としての出発点となったのは、1995年に発表した「文学の位置─森鷗外試論」が群像新人文学賞を受賞したことです。この受賞を契機に、研究者としての視点に加え、批評家としての活動も本格化させました。森鴎外研究は氏の重要な柱の一つであり、その後も宮沢賢治や太宰治といった日本近代文学の代表的な作家たちを深く論じています。これらの作家論を通じて、文学作品が持つ普遍的なテーマや、時代背景との関わり、そして現代社会における文学の意義について考察を深めています。

氏の著作は多岐にわたり、日本文学の主要な作家論から、文芸批評、そして現代社会が抱える課題に対する人文学的なアプローチまでを網羅しています。特に宮沢賢治に関する著作は複数あり、以下のようなものがあります。

- 『賢治を探せ』（講談社選書メチエ、2003年）
- 『『銀河鉄道の夜』しあわせさがし』（みすず書房「理想の教室」、2005年）
- 『宮沢賢治　すべてのさいはひをかけてねがう』（ミネルヴァ書房「ミネルヴァ日本評伝選」、2014年）

これらの著作からは、賢治文学への深い愛着と多角的な解釈の試みが伺えます。

また、現代の状況と文学・人文学を結びつけた著作も発表しています。東日本大震災の衝撃とその後の社会状況を文学の視点から考察した『現代文学は「震災の傷」を癒やせるか:3・11の衝撃とメランコリー』（ミネルヴァ書房、2019年）や、コロナ禍という未曽有の事態の中で人文学の役割を問い直した『コンテクストの読み方 ―コロナ時代の人文学』（NTT出版「人文知の復興」、2021年）などは、現代社会に対する批評的な眼差しを示しています。さらに、太宰治の作品と生涯を新たな角度から論じた『失格でもいいじゃないの　太宰治の罪と愛』（講談社選書メチエ、2023年）は、作家が抱える「罪と愛」というテーマを現代的に読み解く試みとして注目されています。

これらの単著に加え、文学作品の冒頭や隠れた側面に着目した共編著『名作はこのように始まる Ⅰ』（芳川泰久共編著、ミネルヴァ書房、2008年）、『名作は隠れている』（千石英世共編、ミネルヴァ書房、2009年）もあります。これらの著作からは、研究者、批評家として文学作品にいかに向き合うべきか、その方法論の一端を垣間見ることができます。

その研究成果と批評活動は高く評価されており、前述の群像新人文学賞に加え、2015年には『宮沢賢治』（ミネルヴァ書房）によって島田謹二記念学藝賞を受賞しています。これは、長年にわたる宮沢賢治研究の功績が認められたものです。

千葉一幹氏は、古典から現代まで幅広い日本文学を対象としつつ、常に日仏比較文学という視点や、現代社会の状況と人文学を結びつける視点を持ち続けることで、従来の文学研究や批評の枠に留まらない、独自の活動を展開しています。大東文化大学での教育活動と並行して、その精力的な研究・批評活動は、今後の文学研究や文芸批評のあり方にも影響を与えていくことでしょう。

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