千走川温泉

概要

北海道の南西部に位置する島牧郡島牧村の山間部、清流千走川の上流に、ひっそりとその湯を湛える温泉地があります。その名も千走川温泉（ちはせがわおんせん）です。多くの温泉地が賑やかな温泉街を形成するのに対し、千走川温泉にはただ一軒の宿が静かに佇んでいます。豊かな自然に囲まれた隠れ家のようなこの温泉地は、都会の喧騒を離れて心身をリフレッシュするのに最適な環境を提供しています。

泉質とその特徴

千走川温泉の最大の魅力は、その個性的な泉質にあります。分析に基づいた泉質名は「ナトリウム－炭酸水素・塩化物泉」。かつては「含食塩 - 重曹泉」とも呼ばれていました。源泉の温度は39.2度と体温に近く、pHは6.5で中性です。これにより、肌に優しく体への負担が少ない中性低張性の温泉と言えます。動力揚湯によって、毎分27リットルの湯が湧き出しています。

湯の色は弱く黄色みを帯びた濁りがあり、視覚的にも特徴的です。口に含むと、わずかに塩味と炭酸味を感じる独特の風味がありますが、不快な匂いはほとんどありません。この特別な泉質を持つ湯は、保温効果や美肌効果など、様々な効能が期待されています。

千走川温泉旅館

千走川温泉に存在する唯一の施設が「千走川温泉旅館」です。この旅館は、清らかな流れを見せる千走川のほとりに静かに建ち、周囲の自然との一体感を感じさせる趣があります。宿泊はもちろんのこと、日帰りでの入浴も受け付けているため、気軽に千走川温泉の湯を体験することが可能です。

館内には、ゆったりと湯に浸かれる内風呂と、開放的な空間で自然の息吹を感じながら入浴できる露天風呂が備えられています。源泉温度が比較的に低いため、湯は快適な温度に加温されていますが、常に新鮮な湯が浴槽に注がれる「掛け流し」方式を採用しています。これにより、温泉本来の成分や鮮度を損なうことなく、湯の恵みを最大限に享受できるよう工夫が凝らされています。

温泉の歩み

千走川温泉の歴史は古く、その始まりは明治時代にまで遡ります。公式な記録によると、この地に温泉の存在が確認されたのは1871年（明治4年）のことです。その後、温泉を利用するための施設が整備され、1885年（明治18年）には正式に湯治場として開湯しました。以来、地域の人々や遠方からの湯治客に静かに親しまれてきました。

現在の千走川温泉旅館の基盤となる本館が完成したのは、比較的近年の1981年（昭和56年）です。さらに、利用者の快適性を向上させるため、1995年（平成7年）には本館の大規模な改装工事が行われました。発見から150年以上の長い歴史を持ちながらも、時代に合わせて設備を更新し、訪れる人々を温かく迎え入れています。

アクセス

千走川温泉へのアクセスは、主に車を利用するのが最も便利です。公共交通機関を利用する場合、最寄りの鉄道駅は函館本線の黒松内駅となります。黒松内駅からは、車で移動した場合おおよそ1時間20分程度の時間を要します。

路線バスなどの公共交通機関のみでのアクセスは難しいのが現状です。そのため、千走川温泉を目指す際には、自家用車やレンタカー、あるいはタクシーなどを利用することが推奨されます。道中の道のりは、北海道らしい豊かな自然に囲まれており、温泉地へ向かう移動時間そのものも旅の一部として楽しむことができるでしょう。

結び

北海道島牧村の深い山中にひっそりと佇む千走川温泉は、華やかさはありませんが、質の高い温泉と静寂が最大の魅力です。ナトリウム－炭酸水素・塩化物泉という個性的な湯に身を委ね、千走川のせせらぎだけが響く露天風呂で過ごす時間は、日頃の疲れやストレスを忘れさせてくれる至福のひとときとなるでしょう。

一軒宿ならではの家庭的な雰囲気と温かいもてなしも、この温泉地の大きな魅力です。心身のリフレッシュを求め、隠れた名湯を発見したいと願う旅人にとって、千走川温泉はきっと忘れられない特別な体験を提供してくれる場所となるはずです。静かに湯と向き合い、自然の恵みを享受できる、まさに大人のための隠れ家温泉と言えるでしょう。

もう一度検索