南アルプススーパー林道

南アルプススーパー林道とは

南アルプススーパー林道は、かつて山梨県中巨摩郡芦安村（現在の南アルプス市の一部）から長野県上伊那郡長谷村（現在の伊那市の一部）にかけて、赤石山脈を横断する壮大な計画のもと建設が進められた大規模な林道プロジェクトです。その名称は、この地域にそびえる赤石山脈が「南アルプス」と呼ばれることに由来しています。現在、この林道は山梨県側が「山梨県営南アルプス林道」、長野県側が「伊那市営林道南アルプス線」として、それぞれ管理・運営されており、「南アルプススーパー林道」という統一名称は使用されていません。

建設の経緯

この林道計画の源流は、昭和27年（1952年）に遡ります。当時、建築資材としての木材需要が高まる時代背景のもと、早川上流にある野呂川流域の豊かな森林資源を活用する目的で、「野呂川林道」の建設が始まりました。この野呂川林道は昭和37年（1962年）に開通し、地域の森林開発を促進するとともに、人里離れた山間地の交通利便性を大幅に向上させました。

特に、野呂川林道が日本第二の高峰である北岳への主要な登山ルートとして広く利用されるようになったことを契機に、地域の活性化、特に観光振興を目的としたスーパー林道構想が持ち上がりました。これを受け、昭和41年（1966年）からは、森林開発公団主導のもと、既存の林道網を組み込みつつ、山梨・長野両県を結ぶ南アルプススーパー林道としての本格的な建設が始まりました。

環境保護との対立

しかし、スーパー林道計画が進行する直前の昭和39年（1964年）には、南アルプス地域が国立公園に指定されていました。このため、その急峻で貴重な自然の中を進む大規模な道路建設は、国立公園内の自然景観や生態系への影響が大きいとして、自然保護団体など様々な組織から強い批判を受けました。これが建設に反対する社会運動へと発展し、全国的な環境保護意識の高まりも相まって、昭和48年（1973年）には当時の環境庁長官（後の毛利松平氏）が工事の一時凍結を表明するという事態に追い込まれました。

状況が動いたのは昭和53年（1978年）です。道路幅員の縮小、一部ルートの変更、土砂災害対策の徹底といった厳しい条件が付された上で、凍結されていた建設工事が再開されることになりました。そして、昭和54年（1979年）11月12日には山梨県側で完成式典が執り行われ、全線が開通しました（なお、実質的な供用開始は翌昭和55年（1980年）と見なされることもあります）。

現在の利用状況

開通後、この林道は山梨県と旧長谷村（現在の伊那市）に移管され、それぞれ現在の山梨県営南アルプス林道、伊那市営林道南アルプス線へと改称されました。これにより、「南アルプススーパー林道」という名称は公式には使われなくなりました。

現在のこの林道は、例年、冬季の積雪期間は全線で通行止めとなり、概ね6月から11月にかけてのみ利用可能です。特に、南アルプスの豊かな自然環境の保護と、一部の狭い道路幅員への配慮から、現在では一般車両（マイカー）の通行は原則禁止されています（いわゆるマイカー規制）。そのため、この林道を利用して奥地へ向かう唯一の主要な手段は、山梨県側（南アルプス市芦安）と長野県側（伊那市長谷）それぞれの山麓から運行される路線バスに限られています。

この路線バスは、甲斐駒ヶ岳や仙丈ヶ岳といった南アルプスの主要な山々へのアクセス拠点となるため、多くの登山客に利用されており人気が高いです。山麓のバス乗り場周辺には、マイカーからバスに乗り換えるための大規模な駐車場が整備されています。

しかし、近年では自然災害の影響も受けています。特に、令和元年（2019年）の台風19号により、広河原と北沢峠を結ぶ区間の複数箇所で大規模な道路崩落が発生しました。残念ながら、令和6年（2024年）9月現在もこの区間は通行止めが続いており、復旧の具体的な見通しは明らかになっていません。

南アルプススーパー林道は、当初の木材運搬という目的から、自然保護との厳しい対立を経て、現在はマイカー規制下の路線バスによって登山客を運ぶという形で、その歴史的な役割を果たし続けています。

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