南アルプス（中央構造線エリア）ジオパーク

南アルプス（中央構造線エリア）ジオパーク

南アルプス（中央構造線エリア）ジオパークは、長野県飯田市から諏訪郡富士見町にかけての中央構造線沿いに位置し、その地質遺産を保全・活用する地域です。このジオパークでは、地球のダイナミックな活動によって形成された日本列島の基盤を観察することができます。

ジオパークの成り立ち

2008年、南アルプス地域は日本ジオパークとして初めて認定されました。その後、2012年に「南アルプス（中央構造線エリア）ジオパーク協議会」が設立され、2014年には日本ジオパーク全国大会が開催されるなど、地域をあげてジオパーク活動に取り組んでいます。

ジオパークの特徴

南アルプスジオパークの最大の特徴は、プレート運動によって形成された日本列島の地質を直接観察できることです。特に、中央構造線の東側（外帯）に位置する南アルプスの山々は、かつて海底に堆積したサンゴや放散虫の遺骸が、数千キロも移動し、陸地の砂や泥とともに大陸プレートに付加されたものです。これらの付加体が隆起し、3000メートル級の山々を形成しました。現在も、伊豆半島との衝突により南アルプスは隆起を続けており、年間約4ミリメートルという世界でも稀に見る速さで上昇しています。この隆起と同時に、風雨による浸食も活発に起こっており、ダイナミックな地形が維持されています。

中央構造線

大鹿村や伊那市では、西南日本を内帯と外帯に分ける中央構造線が地表に露出しています。中央構造線を境に、内帯側には高温の変成岩や花崗岩、外帯側には低温で高圧の変成岩が分布しています。特に、領家帯の岩石が白亜紀後期に断層深部で変形したマイロナイトは「鹿塩マイロナイト」として知られています。

中央構造線の露頭

中央構造線の露頭は、大鹿村の北川・安康、伊那市長谷の溝口・溝口北・非持・板山などで見ることができます。これらの露頭では、領家帯の花崗岩が変形したマイロナイトと、三波川帯の緑色片岩が接しており、その境界が中央構造線です。北川・安康の露頭は国の天然記念物に指定されています。

中部地方の中央構造線

中部地方では、中央構造線は地層がねじ曲がり、八の字状にまくれ上がったような形状をしています。これは、日本列島がアジア大陸の一部だった頃は直線状だったものが、新第三紀の日本海の拡大と、伊豆ー小笠原海底山脈の衝突により、大きく折り曲げられたためです。

領家帯のマイロナイト

マイロナイトとは、地下深くで高い温度と圧力の下で断層運動を受け、引き伸ばされた岩石のことです。領家帯の花崗岩や変成岩は中央構造線沿いでマイロナイト化しており、石英が細かく再結晶し、長石が斑点状に残っているのが特徴です。

主なジオサイト

ジオパーク内には、地域ごとに異なる特徴的な地形や露頭、歴史的な文化を観察できるジオサイトが点在しています。

富士見エリア: 入笠山では海底起源の岩石や糸魚川静岡構造線沿いの地形が見られます。
高遠エリア: 高遠を流れる藤沢川の谷には中央構造線が通っており、板山露頭もその一つです。
長谷エリア: 三峰川沿いには中央構造線が走り、南アルプス林道沿いには海洋地層が広がっています。溝口露頭、溝口北露頭、非持露頭、戸台の化石資料室などがあります。
大鹿エリア: 赤石岳がそびえ、中央構造線の露頭が点在するほか、山中から湧き出る塩泉から作られる山塩が有名です。北川露頭や中央構造線博物館があります。
上村エリア: 傾斜のきつい山腹に開かれた下栗の里や、隕石衝突でできた御池山クレーターが見られます。
南信濃エリア: 遠山川では埋没林や森林鉄道の跡が見られ、霜月祭りなどの文化も残っています。

脚注

この解説は、以下の文献を参考に作成しました。

『全国ジオパーク完全ガイド』 株式会社マイナビ、2012年
山下昇編著『フォッサマグナ』 東海大学出版会、1995年
信濃毎日新聞社編集局編 『信州の活断層を歩く』 信濃毎日新聞社、1998年
堤之恭 『絵でわかる日本列島の誕生』 講談社、2014年
『ジオパークを楽しむ本ー日本列島ジオサイト地質百選ー』 株式会社オーム社、2013年
『日本のジオパーク』ナカニシ出版、2011年
『南アルプス概論 長野県版』南アルプス世界自然遺産登録長野県連絡協議会、2012年

関連項目

フォッサマグナ
南アルプス国立公園

外部リンク

南アルプス(中央構造線エリア)ジオパーク
* 大鹿村中央構造線博物館

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